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文壇の中心ながら早世した中上健次(1946~92年)。行きつけだった東京・新宿のバーを作家の島田雅彦さんが訪ね、代表作『枯木灘』の世界に思いをはせた。
血族の濃密すぎる愛憎
日本の近代文学は前近代の家族制度に伴う呪縛から逃れることを目指し、おのが出自、血縁を呪う主人公を複数輩出して来た。彼らは良家と姻戚関係を結ぶための政略としての結婚、家業や家名を存続させるための養子縁組、家督の相続を巡る骨肉の争い、世襲化、固定化された職業、階級といった問題に常に直面していた。『破戒』の島崎藤村然(しか)り、養子としての過去に悩んだ夏目漱石然り、母の狂気の血統を恐れた芥川龍之介然りである。
小松左京は『日本沈没』で「琵琶湖の小アユ論」なるものを展開している。戦前の日本社会では「家」や「世間」が基本単位になっていて、成人男子は「家」を代表し、世間の荒波に向かっていったが、戦後は核家族化と福祉の充実により、社会の過保護状態がすすみ、成人男子が女性化、幼児化しつつある。いわば、琵琶湖のアユのように小型化し、世界の大人としての成熟の機会を失ったというのだ。
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