- Twitter
- Facebook
- はてなブックマーク
- メール
- リンク
- 印刷
きっと、どこかで幕を開けているそう祈らずにはおられない
◆『北極サーカス』庄野ナホコ・著(講談社/税別1500円)
最後にサーカスに行ったのはいつだったろう。
指折って数えてみると、もう半世紀以上前なのだった。いま思い出したのだけれど、六年前、フランスに旅をしたとき、パリ市中に小さなサーカス小屋が数日間現れると聞いて、なぜか色めき立った。チケットを入手しようとしたのだが、うまく旅程と合わず、泣く泣く断念した。あのとき、「美しい馬が何頭も出るらしいですよ」とパリ在住の友人が言っていた。
サーカスの一番古い記憶は、四歳の頃だ。昭和三十年後半の話だし、親に連れられて二度ほど行っただけなのに、強烈な視覚体験として刻み込まれているのはなぜかしら。サーカスの記憶の断片をとっておきの飴玉のように取り出して舐(な)めると、とても甘美な気持ちに浸る。
この記事は有料記事です。
残り1091文字(全文1461文字)