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平松 洋子・評『北極サーカス』庄野ナホコ・著

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きっと、どこかで幕を開けているそう祈らずにはおられない

◆『北極サーカス』庄野ナホコ・著(講談社/税別1500円)

 最後にサーカスに行ったのはいつだったろう。

 指折って数えてみると、もう半世紀以上前なのだった。いま思い出したのだけれど、六年前、フランスに旅をしたとき、パリ市中に小さなサーカス小屋が数日間現れると聞いて、なぜか色めき立った。チケットを入手しようとしたのだが、うまく旅程と合わず、泣く泣く断念した。あのとき、「美しい馬が何頭も出るらしいですよ」とパリ在住の友人が言っていた。

 サーカスの一番古い記憶は、四歳の頃だ。昭和三十年後半の話だし、親に連れられて二度ほど行っただけなのに、強烈な視覚体験として刻み込まれているのはなぜかしら。サーカスの記憶の断片をとっておきの飴玉のように取り出して舐(な)めると、とても甘美な気持ちに浸る。

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