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女は死なない

これまでも作家として「女」という生き物を内側からも外側からも見つめてきた室井佑月さんがいま、再び語り始める「女」とは。

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女は死なない

第16回 思い込みをやめることから=室井佑月

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 生きていて思う。案外、変えられないことって多い。

 たとえば、この時代に、この国に、あの両親のもとで生まれてきたとか、男であるとか女であるとかは変えられない。

 それでも結婚、未婚、子を生むか生まないかなど、人生の流れの分かれ道はあった。

 選択っていうと格好良いけど、そうじゃなかった。流れ、といういい方がいちばんしっくりくる。

 あたしは、シングル子持ち、仕事持ち。そのときその場の感情に身を任せ、流れるように生きてきたら、そうなっていた。

 なぜか、ほんとに一瞬、子どもが欲しいと思ったときがあった。シングルにも、なろうとしてなったわけじゃない。

 人の一生における時間は限られているし、動かせる身体は一つしかないし、どういう人生の流れになるのかって、ある程度、そのときの自分の感覚だよね。その感覚が正しいか間違っているかはわからないけど。そして、そっから先は、流れに身を任せることになる。

 じゃあ、一旦決まった流れは、どうやっても変えられないのかというと、そんなこともないんだけどさ。

 きっと、それしかないという思い込みをやめれば、人生の流れは変わる。

 あたしもそうだけど、自分を動かすときに「それしかない!」とか「それが正解!」だとか思い込みがち。

 人生の流れを変えるのは、そんな些細(ささい)なことからだ。

 他人のことだとよくわかる。

 あたしはラジオで悩み相談の仕事をしている。先日、同じ日に種類の違う二つの悩みをいただいた。でも、まったくおなじ感想を持った。

 思い込みをやめればいいのに、って。

 一つは50代の会社員Aさんからで、お勤めしている会社の社長が代替わりし、40代になったという。そして、その若い社長さんが「これからは若手を主軸に会社を運営していく」と宣言し、Aさんは暇な業務にまわされることになった。Aさんは自分より若手に偉そうにされてまで、会社にいたくないらしい。でも、転職は厳しいだろうし、これからどうしたらいいのかと悩む。

 お悩みには付随して、現在の家庭状況のことなどが書かれていた。Aさんは転職はしない、会社に残ると決めている。

 なら、人生の流れとして、後輩と対立するか上手(うま)くやるかしかないわな。若手に偉そうにされるって思い込みすぎ。舐(な)められてたまるかと構えるんじゃなく、「悩みがあったらいえよ。金以外のことなら相談に乗るから」ぐらいのAさんでいたらどうよ? 

 もう一つのお悩みは主婦Bさんからのもの。その方の旦那さんは借金をしてまでパチンコにいってしまうという。Bさんは小学生のお子さんを2人抱え、パートを掛け持ちし、一家の生活を支えている。もう疲れて人生が嫌になってきたんだとか。

 なお、子どもたちのために離婚は考えていないらしい。

 人生が嫌になってきても、未成年の子どもは放り出せない。そこを絶対に守るために、旦那を捨てたら、とあたしは思った。

 Bさんがパートを掛け持ちしていくら頑張ろうが、旦那のせいで、この家の貯金箱の底は抜けている。それに、借金をしてまでパチンコへいく父親が、子どもたちのいちばん身近にいる大人ってどうなの? 

 なぜBさんは子どもたちのために、離婚しないというのだろう。子どもたちには悪いが、どうしても旦那を愛しているから捨てられないというならわかるけど。これも単なる思い込みよね。子どもは両親揃(そろ)って育てなきゃいけないという。

 ま、他人のことだから、ズバッといえる。自分のことはそうはいかない。

 もっかあたしの悩みは、高校2年生の息子の今後のことであるが、どうしても「こいつはほんとは頭が良い」と思ってしまう。

 もう高校2年生なのだし、何年、そう思いつづけているんだろう。

 そう、ただの思い込みじゃ。

 その結果、いつも成績表を見るたび肩を落とすことになる。お高い教育費を捻出するために、週に1回は徹夜仕事、五十手前の女にはキツすぎる生活を強いられている。

 この流れを変えるには、くだらない思い込みをやめればいい。

 わかってるけど、簡単にはいかない。

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