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我らが少女A

/189 第5章 35=高村薫 多田和博・挿画監修

 亜沙子は休日だったその日の昼下がり、季節外れの冷たい雨に叩(たた)かれながら、朱美の遺灰の一部を野川に撒(ま)いた。あっけなかった。亜沙子自身がほとんど透明人間だったのか、人影もない草の土手で傘を差した中年女が一人、何をしているのかと訝(いぶか)る者すらいなかった。いや、川べりの草の陰で痩せたザリガニが一匹、ハサミを挙げて亜沙子を見ており、娘を迎えにきてくれたような気がして、ありがとうね、と声をかけた。それだけだった。 それから多摩川線の多磨駅まで歩いて武蔵境行きの電車に乗った。もし近所の小野さんの息子に会ったら何をどう言おうかと思案しながら多磨駅に行ったのだが、今日は夜勤明けの休日だと聞いて拍子抜けした。いくら朱美の幼なじみでも、さすがに遺灰を川に撒いたとは言いにくい。いやそれ以上に、娘が死んで半年そこそこの母親が、セールで買った新しいワンピースを着…

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