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我らが少女A

/190 第5章 36=高村薫 多田和博・挿画監修

 栂野雪子は、夜には一変する野川公園の真っ黒な樹影を背負い、前屈(かが)みになって深夜の東八道路を越えてゆく。午後十時過ぎの多摩川線の電車の光の帯の下をくぐり、小金井市東町の住宅街に出てさらに歩き続ける。

 走ったわけでもないのに息が上がる。ひと塊の熱いゲル状の異物が気管支をふさいでいて、ひと呼吸毎(ごと)に突沸(とっぷつ)して喉から噴き出しそうになる。自分が何をしているのか、家を出たときには分かっているつもりだったが、途中でもう分からなくなった。いや、私は何もしていない。怒りを抑えられないだけだ。アルコールのせい? そうかもしれない。上田朱美。上田亜沙子。私の母を殺し、何事もなかったように生きてきて、この春娘は死んだけれど、母親のほうはいまも何とか平穏に暮らしている。そう考えるだけで全身の血がふつふつしてきて、じっとしていられなくなる。こころも身体も十二年前に逆戻りし…

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