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漫画「君たちはどう生きるか」 道しるべを求めている

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 時代を超え、しっかりと読者の心をつかんだ。

 戦時中に出版された小説「君たちはどう生きるか」の漫画版が昨年8月に発売され、累計発行部数で170万部を突破した。新装版の小説と合わせると210万部に上る。社会現象と呼べるほど共感が広がっているのはなぜか。

 父親を亡くして母親と2人で暮らす15歳の中学生「コペル君」がノートや手紙による叔父との交流によって成長していく物語である。

 日中戦争が始まった1937年に出版された。原作者は雑誌「世界」の初代編集長を務めた吉野源三郎。左翼運動に関わり、治安維持法違反で投獄された経験もある。

 版元のマガジンハウスによると、漫画版は当初、原作を読んだことのある親や教師が購入し、子供や孫、生徒へ薦めて幅広い世代に読まれるようになったという。

 物語には、いじめ、貧困、格差など今の子供たちが悩む問題が取り上げられている。いじめから友達を守るつもりだったコペル君が勇気を出せずに仲間を裏切ってしまい、苦悩する場面には胸を突かれる。

 自分の立場に置き換えて読み、読者はがきを送ってくる10代の若者が多いというのもうなずける。

 漫画版にして読みやすくなったのは事実だが、そればかりではない。コペル君の助言者である叔父自身も一緒に成長する側面が描かれている。このため人を教え導くというより、ともに考える書物として受けとめる読者が多く、現代ではより共感を得たのではないか。

 小説が出版された時代と今の社会状況を重ねて読む人が多いという指摘もある。当時は日本が戦争へと突き進み、社会に閉塞(へいそく)感が強まった時期だ。周囲の空気を読み、そんたくする今と似ているという見方だ。

 宮崎駿監督が同じ「君たちはどう生きるか」のタイトルで長編アニメの製作を再開すると発表があり、ブームはさらに続きそうだ。

 いわば昔の「哲学書」が形を変えて読み継がれる。その吉野が最も伝えたかったのは、周りに流されず、自分で考えて行動することだろう。

 迷える時代の道しるべを多くの人が探している。社会に一石を投じたこの本から学ぶべきことは多い。

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