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我らが少女A

/192 第5章 38=高村薫 多田和博・挿画監修

 娘の喉から、吐息の小さな塊が噴き出す。あと三秒で泣きだす前ぶれの、その気配と同時に真弓は起き出し、ベビーベッドからすばやく娘を抱き上げて、夜風のように寝室を出る。夏以降、夜泣きで夫を起こさないと決めたのは、仕事が忙しい夫のためというより、自分自身の大事な懸案のために、しばらくの間はできるだけ自分と娘の気配を消したいと思ったことに因(よ)る。結婚前の個人的な事柄に夫は関係ないし、自身の少女時代に片をつける作業は、絶対に一人でやらなければならない。上田朱美と自分の間にあった特別の時間を、誰にも覗(のぞ)かれたくない、変形させられたくないという真弓の意思は固い。

 娘に乳を含ませながら、片手で日記の続きを開く。二○○五年十月二十日の<朱美×玉置>の一行は、あらた…

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