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よりそうSPECIAL INTERVIEW

忘れない、風化させない 吉永小百合さんの語り 人の痛み知ることを

吉永小百合さん=長谷川直亮撮影

毎日新聞創刊146周年記念特集

 吉永小百合さんの新作映画「北の桜守」が3月10日に全国公開される。第二次世界大戦末期、南樺太(サハリン南部)から引き揚げ、北海道・網走で戦後を懸命に生き抜く母と息子の物語だ。吉永さんが母・江蓮てつ、堺雅人さんが息子の修二郎を演じた。

     「難しい役だと思いました。『一人で生きていけ』と幼い修二郎を冷徹に突き放すシーンがありますが、私は子どもがいないから、どうしても優しく接してしまうんですよ。厳しくできるか心配でしたが、流氷を前にしていたから、自然に顔がこわばって怖い顔になれた気がします(笑い)」

     日本が領有していた南樺太は終戦後もソ連軍との交戦が続き、「第二の沖縄戦」と呼ばれる大規模な地上戦が行われた場所だ。集団自決や避難民を乗せた疎開船の襲撃が起き、多くの人が取り残された。撮影前、吉永さんは滝田洋二郎監督とサハリンに行き、今も現地で暮らす残留邦人に会った。「壮絶な体験で、大変なことが起きていたのだということを改めて思い知りました」

     てつたちは樺太を脱出するが、時を経るにつれ、てつは記憶障害を起こす。アメリカで成功し、帰国した修二郎は母の世話と仕事の両立にいらだちながらもてつに寄り添う。てつと修二郎の道行きのシーンが印象的だ。「ラストに修二郎が見せる、たとえようもなく優しい表情が好きです」と、吉永さんはお気に入りの場面に息子の母への微笑を挙げた。

     吉永さんが原爆詩の朗読をライフワークとして続けていることは、よく知られている。初めて朗読したのは1986年。胎内被爆した女性を演じたテレビドラマ「夢千代日記」を通じて知り合った被爆者団体からの依頼だった。以来、映画の撮影の合間をぬっては高校生の集会など、さまざまな場所に出かけた。97年、もっと多くの人に聴いてほしいとCD「第二楽章」(広島編)を発表。99年「長崎から」、2006年「沖縄から」を発表した。

     本当ならCDは「沖縄から」で終わったはずだった。しかし、11年3月、福島第1原発事故が起きた。その後は福島の詩も読み、15年には「第二楽章 福島への思い」を発表。あとがきに「忘れない、風化させない、なかったことにさせないために、私は彼らの詩を読みます」と書いた。

     「くじけそうになる時もありますが、こんな悲惨なことがあったということを、小さな声でもいいから語り続けるしかないと思います。映画も同じ。『北の桜守』はフィクションですけど、歴史の中で懸命に生きた家族がたくさんいたことを知ってもらいたいです」

     東日本大震災の復興を願うチャリティーTシャツを毎年作っている。「寄り添って いつまでも」という吉永さんの自筆メッセージが入ったTシャツもある。「天皇陛下が追悼式で『国民が心を一つにして寄り添っていくことが大切と思います』とおっしゃっているのに感銘を受け、使わせていただきました」

    映画「北の桜守」の吉永小百合さんと堺雅人さん=(C)「北の桜守」製作委員会

    心に余裕を持つことが大切

     しかし、寄り添うことは誰にでもできることではない。「北の桜守」では、てつも修二郎も、周りの登場人物たちも寄り添い合えているのはなぜだろう。「それは、てつたちがとてつもなくつらい体験をしたから。修二郎の体験は子どもの時ですが心に残っているし、てつの心の傷も消えることはない。他の登場人物も悲しみを抱え、人の痛みを知っている。だから、寄り添えるのだと思います」

     「とてつもなくつらい体験」をしていなくても寄り添うには、どうしたらいいですかと聞いた。吉永さんはしばらく考えた後、こう答えた。

     「心に余裕を持つことです。心に余裕がないと、寄り添うことはできません。自分がギリギリの状況では、やはり大変ですよね。心に余裕を持つためにはどうしたらいいか? それは難しいけど……そういう時に大切になってくるのが、いろいろな良い物を見たり聞いたり学んだりすることではないでしょうか。音楽でも絵でも文学でも」

     本作で120本目の出演映画となった。「120本でピリオドを打とうかとも考えたんですけど、自然にこの世界から消えるのって難しいしねえ」といたずらっぽく笑った後、続けた。「夢中で演じてきて、自分の子どものように思える作品がいくつもあるのはうれしいです。映画は出るたびに新しい発見があるので、1月に亡くなった星野仙一さんのように、思いを持ち続け、最後まで行けたらいいですね」【井上志津】


    よしなが・さゆり 1945年東京都生まれ。59年「朝を呼ぶ口笛」で映画初出演。以来、「キューポラのある街」「動乱」「細雪」「母べえ」など多くの映画作品に出演している。


    「ともに」キャンペーン 「バリアーゼロ社会」推進

     2018年2月21日は毎日新聞の創刊146周年記念日。毎日新聞は2020年東京五輪・パラリンピックを控え、社会的弱者にとっての障壁を取り払う「バリアーゼロ社会」推進のため、共生社会を実現する「ともに2020」キャンペーンを行っています。これに伴い、146周年記念特集は、昨年に続いて「よりそう」をテーマにしました。さまざまな場面で「よりそう」活動をする各界の人や企業・団体を紹介します。

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