2月10日、石牟礼道子さんが亡くなった。河出書房新社の「世界文学全集」には、日本人作家の長編として唯一、石牟礼さんの「苦海浄土」が収められている。その責任編集者であった池澤夏樹さんは、「本当はもっと早くから、世界的に評価されるべき作家だった」と朝日新聞にコメントした。
私もそう思う。石牟礼道子こそノーベル文学賞にふさわしい作家である。しかし石牟礼文学は地域の土の上で生きてきた人たちの話し言葉が土台になっていて、その息吹で書かれている。翻訳がもっとも難しい文学のひとつなのだ。
このコラムで1回は「苦海浄土・三部作」と毎日新聞西部版「不知火のほとりで」のことを、そしてもう1回は「春の城」のことを取り上げた。大学に入学したその年に「苦海浄土」と出合い、文学の概念が変わった体験と、そして胎児性水俣病患者がおおよそ私の世代であることを書いた。石牟礼道子は、私の親の年代なのである。その世代の人たちが自らの胎内に命を宿した時に水銀をともに宿してしまったことは、明治維新から150年…
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