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俳人の金子兜太さん死去 命の尊さ詠み続けた生涯

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 戦争の悲惨を胸に、命の尊さや、戦後日本への危機意識を俳句に詠み続けた生涯だった。

 社会的な題材を取り入れ、俳句の革新運動をリードした金子兜太さんが亡くなった。金子さんには、創作の原点となった体験がある。

 東京帝国大を卒業後に入った日本銀行を辞め、志願して赴いたミクロネシアのトラック島で、仲間の死を目の当たりにした。「豊かになるなら戦争も悪いことだけじゃない」と血気盛んだった自分が嫌になった。

 戦争の罪滅ぼしがしたい。俳句への思いさえ失いかけたが、捕虜生活の中でも句は次々に浮かんできたと金子さんは述懐している。

 <水脈(みお)の果て炎天の墓碑を置きて去る>

 引き揚げの艦上から万感の思いを込めて詠んだ代表句である。だが、地元民に建設を託した墓碑は心の中の風景だった。彼らの食料を奪った日本人は恨まれてもいたのだ。

 戦後70年の2015年夏、戦争と俳句をテーマにした雑誌の対談で、金子さんは次のように述べている。

 「戦争のことを語るのが俺の唯一の使命だと思っています。もっとリアルに、もっと厳しいもんだということを皆さんに伝えておきたい」

 この年、安全保障関連法に反対するデモが広がった。参加者が手にした「アベ政治を許さない」のスローガンは金子さんの揮毫(きごう)だった。

 戦後の俳壇で伝統的な表現や情趣の革新を提唱した。復職した日銀では労働組合で活躍した後、10年間、地方の支店を転々とした。

 それでも、定年退職の際には地方を巡ったおかげで、俳句の種を随分養えたと言い放つような豪放な人柄だった。人間くさく、飾らない金子さんを慕う人の輪は絶えなかった。

 <みどりごのちんぼこつまむ夏の父>

 俳人の坪内稔典さんは本紙コラムに、金子さんのこの句を選んだことがある。下品と言われそうでためらったが、「『つまむ』に父の微妙な思いがあるかも」と評した。父親の姿が初々しく、自分の命をつまんでいるように感じられたのだという。

 金子さんは「命の大切さに理屈などない」と戦争の愚かさを訴えた。ダイナミックな文体に込めたのは、人間の本能的な思いだった。

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