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第103回全国高校野球選手権

第103回全国高校野球選手権大会(8月10~29日)の特集サイトです。

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#初めての春

第2部 伊万里センバツ・支える人々/1 野球アカデミー 成長促す助走期間 /佐賀

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「IMARI」の文字がえんじ色だった監督時代のユニホームを手にする岡本さん 拡大
「IMARI」の文字がえんじ色だった監督時代のユニホームを手にする岡本さん

 <第90回記念選抜高校野球>

 「中学生の指導をしないか」。伊万里高校で1987年から13年間、野球部監督を務めた岡本和宏さん(72)は、教員を退職直後の2008年に声をかけられた。打診したのは、伊万里市内のスポーツ用品店「中島スポーツ」社長の中島大作さん(45)だった。

 2人の問題意識は共通していた。伊万里市と有田町がある「伊西(いせい)地区」の高校の甲子園出場は06年春の伊万里商だけで、県内で遅れをとっている。

 有望な選手は地区外の強豪校へ進学している現状から、改善できる点は地区内の高校に進む球児の「硬球への慣れ」だと考えた。中学3年の夏の大会を終えてから高校に入学するまでに、技能の底上げをできないか。翌09年、中学3年を対象にした野球塾「IMARIベースボールアカデミー」が産声をあげた。岡本さんは「塾長」に就いた。

 アカデミーの月謝は4000円で、9~12月と、受験シーズンを除いた3月の週2、3回、岡本さんや伊万里市周辺の高校野球部のOB10人ほどが、硬球を使ったキャッチボールやノックで基礎を教えている。「人の目を見て話を聞く」や「返事をきちんとする」など、基本的だが大切な心構えも説いている。

 口コミで評判が広がり現在は市内外から毎年平均40人ほどの受講生が集まる。これまでに塾生は314人を数える。伊万里高校のマネジャー以外の野球部員31人のうち、6割の19人がアカデミー出身者だ。

 右翼手の川尻伊織選手(2年)は仲間に誘われて門をたたいた。最初は、硬球を打つ感触が軟式と違ったため戸惑ったが、「入学前に硬球を触る機会を持てて良かった」と振り返る。アカデミー経験者は「入学後の飲み込みが早い」と評価され、岡本さんは「選手の力を各高校の監督が引き出す後押しができている」と高校前の助走期間での強化に手応えを感じた。

 しかし、アカデミー3年目の11年に危機が訪れた。岡本さんが病気で倒れ、「2カ月近く意識が戻らない状態になった」という。その間、子供たちと野球をする夢を何度も見た。意識が戻ると、病院でボールを握りしめリハビリに励んだ。復帰すると、経済的な理由やチームと方針が合わないといった事情を抱える小学1~6年生向けの「駆け込み寺野球」を12年4月に開いた。命を落としかけた経験が、地域の野球の発展にかける思いに一層拍車をかけた。

 13年には地区内の有田工が夏の甲子園に出場し、初戦を突破した。今春は、ついに母校の伊万里が念願の晴れ舞台を踏む。岡本さんは伊万里高校の野球部OB会の会長を務める。「指導者の楽しさは教え子が成長してくれること。アカデミー出身の子はみんな覚えている。教え子が甲子園でプレーする姿を見られるなんて、指導者として最高の喜びです」と心躍らせる。

   ◇   ◇

 春のセンバツに21世紀枠で初出場する伊万里高校は、さまざまな人の支えの中で大会を迎える。第2部は、縁の下の力持ちたちを紹介する。【池田美欧】

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