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余録

権力を平和裏に譲る「禅譲」は…

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 権力を平和裏に譲る「禅(ぜん)譲(じょう)」は今も政治記事などで見る。中国の伝説上の聖王、尭(ぎょう)と舜(しゅん)に由来するのはご存じだろう。尭は血縁のない有徳の舜に天子を譲り、舜も同じく治水に優れた禹(う)を後継者にしたのだ▲禹の王位は息子が世襲し、中国最初の夏王朝が始まったとされる。その後の歴代王朝では禅譲を名目にした帝位簒奪(さんだつ)はあるが、実質的な禅譲は一度もないという。だからこそ尭と舜は理想の聖王とされた(陳舜臣(ちんしゅんしん)著「中国の歴史」)▲権力を私物化すべきではないが、現実はそうなる中で儒者に神聖視された尭舜の禅譲である。そしていまだ選挙による政権交代のない今日の中国で、現代風禅譲といえる任期制による最高指導者の交代を2代続けた共産党政権だった▲いや何も2期10年で後継者に道を譲った江沢民(こうたくみん)、胡錦濤(こきんとう)両氏を尭と舜になぞらえるつもりはない。だが禅譲で権力を得た習近平(しゅうきんぺい)氏が改憲により国家主席の任期の上限を撤廃すると聞けば、やっぱり禅譲は2代が限度かとため息も出る▲文化大革命への反省に根ざすトウ小平(とうしょうへい)氏の改革・開放路線では、個人崇拝を防ぎ、指導者の世代交代を促した主席任期制だった。だが今や1強といわれる権力者にはじゃまな規則らしい。改憲すれば終身主席という王朝化も可能になる▲禅譲は不可能という中国史の呪いをようやく脱したかと思ったら、またも逆戻りか。選挙での政権交代が当面できぬならば、せめて指導者には歴史の基層に沈殿する政治文化に足をとられない賢慮がほしい。

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