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第103回全国高校野球選手権

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#初めての春

第2部 伊万里センバツ・支える人々/5止 週末のノッカー 実戦へ一球にこだわり /佐賀

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守備陣を鍛えるノックを打つ前川さん(右) 拡大
守備陣を鍛えるノックを打つ前川さん(右)

 <第90回記念選抜高校野球>

 土日の伊万里高校のグラウンドにはノッカーが1人増える。野球部OBで2005年度から4年間、同校監督だった前川博さん(46)で、次々とゴロやライナーを繰り出す。「守備は練習すればするほどうまくなる」と母校の成長を願い練習を陰から支えている。

 控えの捕手の前川一球(いっきゅう)選手(1年)の父親で、教員ながら現在は県庁に出向しており、たまに練習を見に来ていた。見かけた吉原彰宏監督(43)がノックの手伝いを依頼すると、「役に立てるなら」と快諾した。昨年末から週末の守備練習に加わるようになった。

 吉原監督は「守備練習が単調になるのを防ぎたかった」と話す。前川さんが加わる前は、吉原監督と草津泰英部長(55)、仙波優磨副部長(24)の3人がノックをしていた。ノッカーによって打球の質が異なるため、1人増えるだけでも選手にとっては、違う質の打球を捕球することになる。

 前川さんはノックで、より実戦に近い打球を放つように意識している。ライン際に切れる打球や鋭いライナーなど一球一球にこだわる。練習に足を運ぶうちに選手の顔や名前を覚え、「あの選手は肩が弱い」「この選手は捕球の際に打球を待つ癖を直せば、もっと良くなる」と細かく観察する。

 それぞれの親が自分の子供以外の選手に口を出し始めると収集がつかなくなるため、「指導は一切しないという条件」で引き受けている。気付いた点は直接選手には言わず、一歩引いたところからチームを見守る。松尾拳志選手(1年)は「普段の練習と違う打球を受けることができありがたい。刺激になる」と言い、選手からの評判も上々だ。

 8年ぶりの母校のグラウンドに立つ前川さんは「まさかまたここでノックを打てるとは。不思議な時間が流れている」と感慨に浸る。監督だった当時から最終下校時刻を守るために練習時間が少ないのは変わらない。「今年のチームは簡単には終わらない。これまでのチームの中でもそうそうない良いチーム。伊万里に風が吹いている」とノックバットを握る手にも自然と力がこもる。

 「野球の目的は人格形成」と言う。相手が捕球した後に投げやすいような場所に投げる「思いやり」など野球はたくさん教えてくれる。「野球で学ぶことは社会で生きていく中で必要なものばかり。野球を通していろんなことを感じ取ってほしい」と願う。「みんな野球が楽しくてやっているはず。一生懸命やれば結果がどうであれ楽しめる。全力で楽しんでほしい」。きっと甲子園で多くのことを学んで帰ってくる。そんな予感がしている。【池田美欧】=おわり

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