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名作の現場

第36回/止 『万葉集』 案内人・酒井順子(その2止)

今も多くの人々が行き交う大宰府政庁跡=福岡県太宰府市で、津村豊和撮影

 大宰府を外敵から守るためにつくられた水城(みずき)跡にも、行ってみました。高さ九メートルほどの土塁が続く様は、この時代の人たちが、外国から攻められることに抱いた恐怖心の強さを表します。転勤族たちも、ただ花を愛でたり歌を詠んだりしていただけではなかったのでしょう。

 大宰府赴任から約三年後、旅人は帰京することになります。水城まで見送りに来た人々の中には旅人が親しくしていた「娘子(おとめ)児島」がいました。妻を亡くした男性は往々にして一人で生きられないものではありますが、しかし六十五歳にして親しい女性がいたとは、旅人も隅に置けません。

 水城跡の歌碑には、児島と旅人が別れの時に詠んだ歌が記されています。旅人は大納言に出世して帰京することとなったのですが、児島の身分は低い。振りたい袖も振れずにいる……、と耐える一首目。しかし二首目は、

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