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余録

野球の春はコウシエンにやって来たが…

 野球の春はコウシエンにやって来たが、コウジエンには来なかった--10年前、センバツが第80回記念大会を迎え、広辞苑第6版が刊行されたばかりの春に小欄はそう書いた▲野球シーズン到来の喜びを分かちあう言葉に「球春」がある。戦後の言葉とされるが、戦前の小紙のセンバツ報道でも使われていた。それが広辞苑の新しい版には採録されなかったのを、センバツの開会式にからめて書いたのである▲2018年、めでたく野球の春はコウジエンにもコウシエンにもやって来た。先々月に刊行された第7版にはやっと球春が「野球のシーズンが始まる、春先の頃」の語釈とともに掲載された。センバツは迎えて第90回記念大会となる▲大会創設時の小紙社告は、各校新メンバーの意気が高まるこの季節の大会の意義を説いていた。「春はセンバツから」の名文句は「春だ、踊りだ」の松竹少女歌劇団の宣伝コピーをヒントに先輩記者が11回大会から使い出したという▲「シーズン初めの大会などおかしい」。戦争直後は占領軍の横やりが入ったが、春を告げるセンバツをやめさせると「日本人にうらまれる」と説いた通訳の機転で戦後の歴史が始まった。「球春」も一時は存続が危うかったのである▲被災間もない阪神大震災、東日本大震災後の大会もそんな球春の危機であった。奪われた春を取り戻そうとする列島の連帯の証しとなった球児らの一投一打だった。白球、そして36チームのひたむきなプレーが運んでくる90度目の春である。

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