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富士山頂日誌

どこへ 測候所の68年、台風や戦争も記す 気象台「私的で保管義務ない」

富士山測候所。職員は独自の目線で戦中戦後を見つめてきた=富士山頂で2004年5月、本社ヘリから手塚耕一郎撮影
所在不明になっている「カンテラ日誌」=「カンテラ日記 富士山測候所の五〇年」(筑摩書房)から

風速50メートル。庁舎身震い/眼下の街焼土。これが戦争

 気象庁富士山測候所の職員が戦中から代々つづった「カンテラ日誌」の所在が不明になっている。日々の業務や苦労話に加え、米軍機のB29飛来や空襲に焼かれる眼下の街の様子も記載。英旅客機が近くに墜落する姿も記した。独自の視点で戦中戦後を記録した貴重な資料で、気象や歴史の研究者らから惜しむ声が上がっている。【荒木涼子】

     「カンテラ」は石油などを燃料にした携帯用ランプ。日誌は、同測候所の支援拠点である御殿場基地事務所(静岡県御殿場市)に保管されていたが、2004年の測候所無人化と共に閉鎖された後は、同測候所を管轄した東京管区気象台(東京都千代田区)に移された。同気象台12年作成の「カンテラ日誌等保管状況調査表」によると、1936年から無人化まで68年間で計44冊あった。

     毎日新聞は今年1月、情報公開法に基づいて開示請求し、「不存在」の通知を受けた。同気象台担当者は取材に「職員が私的に記したもので公文書にはあたらず、保管義務はない」と説明した。

     同測候所の元職員が日誌の抜粋を基に著した書籍「カンテラ日記」(85年発行)によると、風雪や低温など厳しい環境での作業内容や気象レーダー建設の苦闘、仕事に対する誇りのほか、イノシシが現れたなどの珍事も記録。戦時中には測候所が米軍機の銃撃を受けたことや、日本陸軍が気圧の低い山頂で炊飯実験をしたことも書いている。

     英旅客機事故は66年にあり、富士山付近の乱気流で空中分解し、乗客乗員124人全員が死亡。目撃した職員は「上昇姿勢で右翼の三分の二を残し、火と煙りを吹いて落ちる」と記した。

     2000年代初めに御殿場基地事務所で一度閲覧した山梨学院大法学部の松本武彦教授(法制史)は、「山頂にいたから書けた内容。気象史としてだけでなく、山岳史や戦争史の面でも研究価値がある」と指摘する。

     同気象台担当者は取材に「プライバシーに関係する内容もあり、保管していたとしても開示できない」と話した。一方、気象庁発行の記念誌などでは多数引用されている。気象庁気象大学校の元教授、土器屋(どきや)由紀子さんは「職員の思いがつまった日誌を誰かが廃棄したとは考えにくい。資料の山に埋もれているのではないか。捜し出し、誰でも読める仕組みを考えるべきだ」と話す。


    カンテラ日誌の主な内容

    1937年

    9月11日 (台風の四国上陸で)風速は50メートルをこす。建具は鳴りわめき、庁舎は身震い

    1943年

    7月8日 登山者が多く、白装束や国民服に国旗でばんざい三唱する気概は天を突く

    1944年

    12月3日 B29、みごとな編隊で3回山頂を通過。第1回十数機、第2回4機、第3回12機、そのうち3機が機銃を発砲した。目標は観測所と考えられる

    1945年

    3月11日 西を見ると、赤石岳の左側が明るく、名古屋方面が(空襲で)火災のもよう。南西の浜松方面にも大火災。気持ちは文字では表せない

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    7月10日 毎日のように中都市が攻撃を受ける。山頂から見える街が毎晩一つ、二つと焼土となる。これが戦争の現実だ

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    8月15日 1億同胞の永遠に銘肝すべき日。山頂勤務者一同慟哭(どうこく)せり

    1957年 

    10月14日 ソビエトの人工衛星第1号の観測を、東京理科大、毎日新聞記者など8名で行う

    1964年 

    10月1日 富士山レーダーが電波発射を開始。来襲する台風をつかまえ、威力を示すべくがんばろう

     =書籍「カンテラ日記」から


     ■ことば

    富士山測候所

     正確な天気予報には高層の気象データが欠かせないとの考えから、気象庁の前身の中央気象台は1932年、富士山頂火口の南東側の縁に「臨時気象観測所」を設けて通年観測を開始。36年には火口南西側にある最高地点の「剣ケ峰」(3776メートル)に移転し「富士山頂観測所」、50年に「富士山測候所」と改名した。台風観測などのため、64年にレーダーの運用を開始したが、その役目が気象衛星「ひまわり」に移り、99年に廃止。2004年に測候所が無人化された。

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