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号外「鉄人」衣笠祥雄さん死去 広島で活躍 71歳
キャンパる

人は人によって磨かれる 新社会人へ贈る言葉 ダイキン会長の祖父に聞く---

インタビュー時の緊張が解け、談笑する祖父の井上礼之氏と記者=兵庫県内で

 空調メーカー・ダイキン工業の取締役会長、井上礼之氏(83)。経営赤字から、奇跡的な復活を遂げ世界一の空調会社へ導いた経営者であり、記者の祖父でもある。幼少期から今日まで、どんなささいな悩みを相談しても多くの言葉を使い、祖父自身の思考を記者にぶつけてくれた。今回は孫としてではなく、キャンパる記者として新社会人を迎えるこの時期に、一番身近な経営者を直撃した。【成蹊大・林杏香】

     3月のある日、記者は東京都内の自宅を出発し兵庫県にある祖父の自宅へ向かった。孫とはいえ、多忙な祖父のスケジュールを押さえるのは容易ではない。「よう来たな」と手を振り出迎えてくれた祖父。「はい、これ」と、到着し一息つく間もなく3枚の紙を渡された。事前に送付した質問項目の回答だった。

     「ありがとうございます」。記者も自然と敬語となり、祖父から笑顔が消えた。スイッチオン。経営者の表情となった井上氏は、眼鏡越しにその3枚の紙と記者の顔を交互に見ながらインタビューに応じた。

     1957年、ダイキン工業(当時は大阪金属工業)へ、知り合いのいた父(記者の曽祖父)の縁故で入社した。希望は営業職だったが、配属されたのは総務部。仕事らしい仕事はほとんどなかった。数年がたった頃、10日間の無断欠勤にいたった。「このままではいけない……」とクビを覚悟し出社したが、叱責はなにもなかった。

     こんな自分を受け入れてくれた社風や職場の人の寛容さと優しさに心を打たれた。職場の雰囲気が欠勤前に見ていた景色と全く違っていた。その後は仕事に没頭し、タイムカードの廃止や労働組合との団体交渉に積極的に取り組んだ。総務・人事畑で過ごした後、94年に社長へ上りつめた。

     「人はなんにでも化ける」「一流の戦略よりも一流の実行力」。この言葉が井上氏の口癖だ。社長就任時、会社全体の業績は17年ぶりに赤字に転落。井上氏は、従来の業務用に重点を置く戦略を転換し、業務用、家庭用、ビル用セントラルの「3本柱」で攻めるという空調改革計画を打ち出した。それに加え、国内中心の事業からグローバルへと急速展開するという強い意思決定をした。空調グローバル化の方針が明確にされ、ダイキン流の生産・開発・販売を戦略的に行い大成功をおさめていく。

     海外事業も軌道に乗り、その結果、社長就任時には3000億円台だった売り上げを2兆2700億円へと飛躍的に増加させた。現在世界148カ国で事業展開を果たしており、10年には、空調グローバルナンバーワンの地位を確保した。

     井上氏は話す。「評価は人がするもの。自分が考えている自分の半分は、人からは違って見えている。だから、他人から言ってもらえることを否定しない方がいい」。そしてこう続ける。「ダイヤモンドはダイヤモンドによってしか磨くことができないのと同じように、人は人によってのみ磨かれるのだ」

     社会に出るとさまざまな人との出会いの連続だ。特に大事なメッセージとして、「常に謙虚な姿勢をもつこと、努力を惜しまないこと、多くの人の意見を聞ける人であること、情熱的であること、謙虚さを持ちながら必要な時には率直に意見を言える人であってほしい」と語った。

     これからは、定型化された作業や知識の蓄積は人工知能(AI)に代替される。一方、AIは仕事をなくすのではなく人に期待される役割が変化するといわれている。「正解のない現代は、覚えることではなく自ら考え学ぶ意識が必要なのだ」「思考力、対話力といった人間本来の能力が今まで以上に重視される時代へとうつりゆくのだ」と井上氏は力を込める。

     記者は井上氏の後ろ向きな姿を見たことがない。実の娘(記者の母)が最近、網膜剥離で緊急手術となったときも、「命にかかわらないから大丈夫」と一秒たりとも動揺する様子を見せず、心配する記者が拍子抜けしてしまったほどだ。

     スーツをぬぐと普通の「おじいちゃん」。のりを巻いた白飯が大好きで83歳ながら、おかわりをすることも多々ある。これが今でも現役を続け、パスポートが広辞苑ほどの厚さにまでなるほど海外出張を繰り返せる理由なのかもしれない。また無類のサスペンス好きでもある。2時間ドラマの放送中に電話をかけると「いま、サスペンスのいいとこやから」とそそくさと電話を切られてしまうこともしばしばだ。

     インタビューも終わりに近づき、記者の話題に。「ついに働くのか。会社は大変だぞ。でも、楽しいぞ」。グラスを強く握りしめニヤリとする井上氏。勤続60年を迎えた人生の先輩の一言はずっしりと重い。「とにかく前向きに、食べず嫌いをせずまずは食べてみること。頑張ってくださいね」。スイッチオフ。鋭い目つきが消え、朗らかな笑顔がもどってきた。

     「肩が痛くて、腕があがらんねん」。痛そうな顔をする祖父。「気持ちは元気でも、体は年だからね。はい、薬」。記者も長生きを願う孫に戻っていた。人生の師であり、大好きなおじいちゃん。4年間のキャンパる生活最後の記事をささげる。


    ダイキン工業

     1924年創業。本社は大阪市。社員数は約7万人、売上高は2兆2700億円(2018年3月期連結予想)。世界各地に90以上の生産拠点を構える空調機、化学製品の世界的メーカー。


     ■人物略歴

    いのうえ・のりゆき

     1935年生まれ、京都府出身。同志社大学経済学部卒。中高生時代はバスケット部に所属。57年、大阪金属工業入社。79年取締役、94年社長就任。2002年、代表取締役会長兼CEO(最高経営責任者)。14年から、取締役会長兼グローバルグループ代表執行役員。リフレッシュ方法は八ケ岳を眺めること。

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