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岡崎 武志・評『映画の中にある如く』『昏い水(くらいみず)』ほか

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今週の新刊

◆『映画の中にある如(ごと)く』川本三郎・著(キネマ旬報社/税別2500円)

 川本三郎『映画の中にある如(ごと)く』は、映画専門誌の長期連載エッセーの単行本化。女優、音楽、鉄道、文学などテーマ別に再編成され、とにかく読みどころが多く充実している。

 源泉は一つの映画なのだが、そこから話題が次々とわき出す。岩井俊二監督「リップヴァンウィンクルの花嫁」の黒木華が、肌を出す服を着ない点に着目。シャツのボタンを上まで留めた「アニー・ホール」のダイアン・キートンを想起させ、「世の中と波長が合わない」女性像だと気づかせる。

 タナダユキ監督「お父さんと伊藤さん」では、登場人物を「さん」「君」付けするスタイルを、林芙美子まで遡(さかのぼ)り、映画と文学での魅力的な使われ方を講義する。並々ならぬ知識と技量には、ただただ感服するしかない。

 偉そうに高みから批判する野暮(やぼ)は、この著者にはない。わが子を慈しむように映画を愛する。たくさんのことを教えられ、映画がこれまでよりもっと好きになる。

◆『昏い水(くらいみず)』マーガレット・ドラブル/著(新潮クレスト・ブックス/税別2300円)

 まだ生きていたのか、と失礼な感想を持ったマーガレット・ドラブル。1970年代に邦訳された『碾臼(ひきうす)』は、灘本唯人のカバーとともに、古本屋でもよく見かけた。未婚の母の行方をヒリヒリするような感覚で描く傑作だった。

 新作長編『昏い水(くらいみず)』(武藤浩史訳)を読むと、このイギリス文壇の大家は、70代で現役バリバリである。ヒロインで70代現役のフランは、老人施設の調査を仕事とし、高速をかっ飛ばす元気な老女。50年前に離婚した夫を引き取り、介護をしている。

 当然ながら、老いと死が彼女を取り囲む。「長寿がわたしたちの年金、保健医療、住まい、ワーク・ライフ・バランスを破壊した。わたしたちの幸福を破壊した」と、イギリスの現実が伝えられるが他人事(ひとごと)でない。

 傷心の息子、元夫の世話、突如として襲う地震など、トラブルを抱えつつ、ときにユーモラスに描かれる「死ぬまで生きる」強い覚悟のヒロイン像が素晴らしい。

◆『微隕石探索図鑑』ヨン・ラーセン/著(創元社/税別2400円)

 ヨン・ラーセンによる『微隕石探索図鑑』(武井摩利訳)には、知らなかった世界が詰まっている。砂粒ほど小さな「微隕石」が、じつは地球上に年間数万トンも降り注いでいる。アマチュアの天文学者である著者は、世界各地を巡り収集、観察、研究を続けてきた。砂にまみれて分からないとの定説を破り、特殊な電子顕微鏡で写真撮影し、アーカイブを作っている。その研究成果が、カラー写真とともに披歴されているが、その多種多彩さと美しさには、誰もが心ときめくはず。

◆『古田織部』高橋和島・著(光文社時代小説文庫/税別780円)

 天下の茶人といえば、千利休となるが、『古田織部』を忘れてはならない。人気コミック『へうげもの』で話題となる戦国数奇(すき)大名の生涯を高橋和島(わとう)が小説化した。乱世の戦国時代、美濃の国に生まれた少年が、信長、秀吉に仕え、出世街道を駆け上る。利休や陶工との出会いがあり茶の道へと転じ、ついに徳川の茶の指南役ともなるが、その生涯に不明な点は多い。血なまぐさい武将の身でありつつ、茶の湯や陶芸など、粋の世界に生きた男として、魅力的に描き出した作品である。

◆『男性という孤独な存在』橘木俊詔・著(PHP新書/税別860円)

 「なぜ独身が増加し、父親は無力化したのか」という副題の『男性という孤独な存在』。著者の橘木俊詔(としあき)は格差論で知られる学者だ。タイトルは聞き捨てならないが読めば納得。統計データや各種アンケートなど、豊富な資料を駆使して、結婚・家族を前提とした男性の役割が変化したことを突きつける。結婚しても、家庭の権力を握るのは妻であり、夫たる男性はますます孤独になる。すべての数字で実証された結論は、納得するしかない。男性諸君、今夜は酒を飲んで泣こう。

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岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』『気がついたらいつも本ばかり読んでいた』など

<サンデー毎日 2018年4月8日増大号より>

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