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放送法4条撤廃案

首相、批判報道に不満か

安倍晋三首相=丸山博撮影

 政府が検討中の放送制度改革案は、政権とマスコミの関係を変えかねない。表向きは放送と通信の垣根をなくして魅力的な番組を作りやすくし、業界を活性化するのが目的だが、政権に批判的な報道への安倍晋三首相の不満が垣間見える。

ネット番組には好意的

 「今はネットでテレビのニュース動画も流れている。同じことをやっているのにテレビだけ規制があるのはおかしい」。首相官邸幹部は、首相の放送法4条撤廃の考えをこう代弁する。

 安倍政権下では、4条の「政治的公平」原則をテコに民放がけん制されてきた。2014年衆院選では自民党が民放とNHKに「要望書」を提出し、選挙報道での「公平中立、公正」を求めた。直前のTBS番組で、景気への厳しい声が相次ぐ街頭インタビューをスタジオで見た安倍首相が「全然(評価する)声が反映されていない。おかしいじゃありませんか」と反発していた。16年2月には高市早苗総務相(当時)が、政治的公平性を欠く放送局に電波停止を命じる可能性に言及し、首相が追認した経緯もある。

 一方、首相はネット番組には好意的だ。昨年の衆院選の際は「Abema(アベマ)TV」に約1時間出演。その後、今年1月31日には楽天の三木谷浩史会長兼社長が代表理事の新経済連盟の新年会であいさつ。ネット出演を振り返り「双方向でいろんな意見があり面白いなと思った。見ている人には地上波と全く同じだ。法体系が追い付いていない」と語った。内閣府の規制改革推進会議のワーキンググループで放送制度の議論が始まったのは、その直後の2月7日だった。

 官邸関係者は「今でもテレビの政治的中立なんてあってないようなもの。それなら米国みたいに視聴者が『このテレビ局はこの政党を支持している』と分かった方がいい」と話す。背景には、テレビ局に「公正」を求めるよりも、ネット番組の影響力を増進する方が望ましいとの政権の方針転換が透けて見える。

 ただ、財務省の決裁文書改ざん問題で政権への逆風が強まった時期と、4条撤廃検討の浮上が重なった。ある閣僚は「首相はマスコミが多少ひるむと思ったのではないか」と推測するが、自民党内には「国民には『ワイドショーが気に入らないから』と見えかねない」との懸念も広がる。

 放送法を所管する総務省内は「すぐやろうというムードはない」(幹部)と冷めている。内閣府所管の規制改革推進会議での議論に対しては「首相の意向に沿った議論になってしまう」との懸念も漏れるが、同会議の幹部は「4条の話は聞いていない」と話す。現状は首相周辺など一部で検討している段階のようだ。

 実際、内閣支持率が下落する中で、「批判封じ」とも映る4条撤廃の議論はハードルが高い。野党は「フェイクニュースが席巻する時代に放送法4条こそが重要だ」(希望の党の泉健太国対委員長)と批判。自民党の二階俊博幹事長は26日の記者会見で「問題の成り行きを慎重に見定めて対応していきたい。私から特に方向性を知らせることはできるだけしない方がいい」と述べて距離を置いた。【遠藤修平、浜中慎哉】

民放は反対の姿勢

 「放送局は、民主的な社会に必要な情報を全国にあまねく伝えている自負があり、健全な世論形成に貢献してきたと思う。単なる産業論で放送業を切り分けてほしくない」。日本民間放送連盟の井上弘会長(TBSテレビ名誉会長)は15日の定例記者会見で、放送法4条撤廃などの改革案を伝える一部報道を受け、反対する姿勢を示した。

 4条は、番組作りに当たって、政治的公平性や正確な報道のほか、公序良俗、多角的意見の紹介を放送局に求めている。放送局にとっては自主自律の運営が前提だが、政権側が放送局に圧力をかけるために乱用もされてきた。その一方で、「番組の一定の『質』を保つ礎になってきた」(民放幹部)側面もある。また、政党が番組での有利な扱いを要望してきた場合、「『公平性原則』を盾に介入を防ぐことができた」(民放関係者)との評価もある。

 この内容規制を外し、首相官邸が狙うように、インターネット事業者などが番組制作に参入した場合、内容の多様化の一方で、視聴率目的で極端な表現をする番組やフェイク(偽)ニュースが横行する恐れがある。実際に米国では、1987年に放送の「公平原則」(フェアネス・ドクトリン)を廃止してから、過激な論調の放送が増え、各放送局の政治的な党派色も強まった。米国内には、公平原則の復活を望む声もある。

 放送設備を管理するハード事業者と、番組を制作するソフト事業者の分離の徹底も、多大な経費がかかる放送設備を持たないネット事業者などが制作に参入しやすくするのが目的だ。だが、災害や有事の際の報道では、現状のテレビ局のようにハード・ソフトが一体の事業者でないと、緊急時の連携で混乱が生じ、「速報できずに被災者の避難や生命に危険を及ぼす」(民放キー局報道関係者)との危惧が強い。分離は、2010年の放送法改正で地上波でもすでに選択可能になっている。ただ、実態としては進んでおらず、政府内でも分離徹底の効果やニーズに疑問の声が上がる。

 また放送局への外資規制の廃止も盛り込まれた。放送法のこの規定は、海外資本に国内の報道機関が支配されるのを防ぐため、外資の出資比率を20%未満(議決権ベース)に制限したもので、政府・自民党内でも「撤廃すれば中国企業などが出資を強め、安全保障にも関わる」(ベテラン議員)と反対が強い。

「NHK1強」か

 改革案は、NHKだけに現行制度を維持し、番組のネット常時同時配信も認める方針を示した。民放からは「国会での予算承認など政権が影響力を行使しやすいNHKは肥大化させる一方で、民放を事実上解体する案で、NHKの1強状態になる」(在京キー局幹部)との不安も漏れる。井上民放連会長も「(民放とNHKとの)二元体制が維持できなくなる」との懸念を示している。【犬飼直幸、屋代尚則】

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