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余録

頭上を覆う桜の花が目を奪う春らんまんだが…

 頭上を覆う桜の花が目を奪う春らんまんだが、足元でひっそりと咲くかれんな草花がささやく春もある。なかには早春に花を咲かせた後には夏までに葉も枯れてしまう「春の妖精」と呼ばれる一群の植物がある▲英語名「スプリング・エフェメラル」は春のはかない命という意味で、日本ではそれを妖精にたとえた。代表的な花がカタクリで、茎の先から下向きに咲く紅紫の釣り鐘状の花はご存じだろう。日が当たると、その花びらがそり返る▲茎や葉も含め地上に現れるのは4~5週間程度で、地下の球根のでんぷんは昔はかたくり粉にされた。「はかない命」は、木々の葉が茂って他の花が咲く前に太陽の恵みと花粉を運ぶ虫を独り占めするしたたかな生存戦略ゆえだった▲堅香子(かたかご)の古名で万葉の昔から人の心をとらえたこの春の妖精である。そんなことを思い出したのも、先日、兵庫県加西市の保護区で50株が盗掘されたと聞いたからだ。自生地を減らし、今では希少種なのも人による乱獲のせいである▲セツブンソウやショウジョウバカマも「春の妖精」に類する。そればかりかギフチョウのように春先にだけ成虫が出現する昆虫もスプリング・エフェメラルと呼ぶことがあるそうだ。ちなみにこのギフチョウも今や絶滅危惧種である▲短い命の輝きによって小さな春を告げてくれる草花や虫たちだ。人の心をとらえ、愛されるのはその生存戦略には誤算だったのかもしれない。ここは人間の責任で守らねばならぬ妖精たちの生態系である。

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