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深い傷

性暴力の現場から/上 告白の夜、夫婦で号泣 父から強姦、被害公表し支援側に

 鹿児島県内に住む女性(43)は高校2年だった初夏、吹奏楽部の練習を終えて家路に就いていた。その日は朝から雨が降っていたため、いつもの自転車ではなく徒歩だった。

 日がすっかり暮れて薄暗い林道にさしかかった時だった。背後から学生服姿の男にいきなり抱きつかれ、押し倒された。必死で抵抗していると、偶然車が通り掛かって男は逃げた。服は泥だらけで、状況を理解できないまま、ただ膝が震えた。

 警察と学校に被害を届け出て、友人にも打ち明けると陰口が聞こえ出した。「あなたのせいで下校時間が早まり、部活ができなくなった」「襲われてうれしかったでしょう」。周囲の反応に驚き、うちひしがれた。「私は悪くないはずなのに」

 性暴力の被害に遭ったのは初めてではなかった。小学生時代から始まった父親の性的虐待だ。中学1年の時は家で寝ているところを強姦(ごうかん)された。「お母さんにも誰にも言うな」。虐待は数年間続いたが、被害は口にできなかった。「誰も助けてくれない」。諦めに近い感情が膨らみ、人知れず苦悩を抱え込んだ。

 短大を卒業して保育士として働いていた24歳の時、たった一人だけ信頼できた今の夫と結婚した。その夫にさえも「性暴力を受けた自分は汚い」と負い目を感じた。長女を妊娠して仕事を辞めると、外部との接触を避けて家に引きこもるようになった。考えるのは父親への復讐(ふくしゅう)ばかり。精神的に不安定になり、不眠にも苦しんだ。

 転機は結婚6年目の29歳の時。夫婦げんかの後、離婚を覚悟し父親からの性的虐待の話を夫に切り出した時のことだ。夫は話を聞き終えると、涙を流して「気付かずにごめん」と何度も謝った。「お前は何も悪くない、汚くない」。2人で一睡もせずに泣き尽くすと、朝の光がまぶしく世界が広がった気がした。

 「過去を受け入れ、自分を許すことで、楽に生きられるようになった」と振り返る。

 再び社会と関わりを持てるようになり、今は鹿児島市のNPO法人などで性暴力やドメスティックバイオレンス(DV)被害に遭った女性の相談に乗る。自らの被害を公表し、3人の子供にも伝えた。心ない中傷は今もあるが、被害者の力になりたいという使命感にも似た思いが支えだ。

 「性暴力被害者は自己評価が低く、声を上げられずに何度も被害に遭ったり結婚後にDVに遭ったりする。被害回復のためには同情ではない周囲の理解が必要。新たな被害者を生まないためにも実態を伝え続けたい」

     ◇

 被害者の心身に深い傷を刻む性暴力。「魂の殺人」と呼ばれる被害の現場を報告する。

心ない言動 回復阻む2次被害

 性暴力の直接的被害だけでなく、その後の周囲の心ない言動や安易な励ましで精神的に傷つく「2次被害」が被害者の回復を阻んでいる。警察庁の2014年度の調査によると、2次被害の相手は、同じ職場や学校の知人11%▽家族や親族10・2%▽病院関係者7・4%--で、2次被害を受けた人ほど本人が感じる回復度は低い。

 2次被害をもたらす言動の背景には「被害者が誘うような服装や態度だった」「若い女性だけが被害に遭う」など「強姦神話」と呼ばれる偏見がある。偏見に基づく言動で傷ついて社会的に孤立し、精神的不調から失業や家庭崩壊につながるケースもある。被害者の自助グループは全国に存在するが、活動自体を公表していない団体も多く、アクセスは容易ではない。

 精神科医の小西聖子・武蔵野大教授は「周囲の人はなぜ被害が起きたのかという疑問をぶつけたりせず、『受け入れる』という態度を示して支えることが大切だ」と指摘する。

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