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毎日フォーラム・牧太郎の信じよう!復活ニッポン

誰でも“孤独死予備軍” 北島三郎次男の死で思ったこと

 世間さまが「東大卒の頭の良いはずの財務官僚が公文書を改ざんした騒動」に夢中になっていた頃、当方、別の「深刻な出来事」に心を痛めていた。

     3月の初め“演歌の大御所”北島三郎さんの次男で、ちょっとは知られた元ミュージシャン、大野誠さんが東京都調布市の自宅で病死していた。

     北島音楽事務所社長である兄の大野竜さんが、弟と1週間ぐらい音信不通。心配になって、3月3日、調布市の自宅を訪ねると、一人暮らしの誠さんは、服を着たまま「パタッと倒れていた」。

     死因は心不全。死後約1週間経過していた。俗に言う「孤独死」だった。1週間も「訪ねる人物」がいなかった。「孤独の最後」と言っていいだろう。

     記者会見で、サブちゃんはしょうすいしきった表情。「よく家に来るんです。『このカツがうまいんだよ、食べな』とか『このジャンパーが似合うと思うから、着なよ』と声をかけてくれたり、優しくしてくれた」と話すのが精一杯だった。我が子が先に逝く。たまらない思いだろう。まして、遺体の発見まで1週間もたっていた。余計、切ない。

     北島音楽事務所の常務という「立派な仕事」もあり、それ相応の経済力もあった。 何よりも、51歳は働き盛りではないか。親より先に、あの世に旅立つ。これも、運命なのかもしれない。でも「運命」で済ましていいのだろうか?

     都会には人がたくさんいる。それにも関わらず、誰にも気付かれず死んでいく。「都会の中の孤独」で片付けてよいのだろうか?

     たまたま、誠さんが遺体で発見された前日「日本少額短期保険協会・孤独死対策委員会」という団体が「孤独死現状レポート」なるものを発表していた。

     レポートは、まず「孤独死の定義」で始まる。「自宅内で死亡した事実が死後判明に至った1人暮らしの人」。だとすれば、高齢者が圧倒的に多いはずである。

     人気漫画「傘寿まり子」には「孤独死」という言葉が何度も登場する。ベテラン作家の幸田まり子は80歳。自分の家で息子夫婦、孫夫婦と暮らしていたが、住居トラブルが勃発する。老人の自分には居場所がないことを感じ、一人、家出を決意する。

     どこにでもある「老人の家出騒動」である。まり子は、まず、不動産屋に向かった。「部屋を借りたいのですが」「80歳ですか、うーん、大家さんが嫌がることが多くて……」。 ズバリ、大家も、不動産屋も、年齢を聞くと「孤独死」を心配してしまう。

     家出をした主人公・まり子は部屋を借りるどころか、今夜、泊まる場所すら見つけられない。あてもなくさまよい、たどり着いた先はなんとネットカフェ--。といったストーリーである。

    作者の「おざわゆき」は、1人暮らしの80歳のリアルを描いている。

    考えてみれば、当方も70歳を超えている。夫婦で暮らしているが、何か起これば、家出するなんてことは十分、予測できる。そうなれば、1人暮らしのリスクは、高血圧であったりする。肺炎になったりしたら、日常の生活が困難になる。餓死することもあるだろう。肝硬変で意識不明に陥りそのまま亡くなるケースや、家の中で転倒して骨折し電話で助けを呼ぶことができずに衰弱死してしまうケースも新聞で読んだ。

     1人暮らしになることは、孤独死を覚悟することである。高齢者はすべて「孤独死予備軍」なのだ。

     国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、全世帯に占める単身世帯の割合は2015年に35.5%だった。それが、40年になると39.3%に増える。全世帯の4割近くが「1人暮らし」で「孤独死予備軍」になり得る。

    高齢者だけの話ではない。体力のある青年層も、成人病患者でなくても、何らかの原因で助けが呼べずに、衰弱して死亡するケースも少なくない。事実、誠さんのような50代以下の現役世代が孤独死全体の4割を占めているというのだ。

     それでは、どんな人が、孤独死するのか?

     誠さんの場合は、近隣住民の話だが、一戸建ての郵便ポストには「回覧板は不要です」という張り紙がしてあった。町内会にも入っていない。周囲は、どんな人が住んでいるのか分からない。まさかサブちゃんの息子さんが住んでいるとは誰も思わなかった。

     例の「孤独死現状レポート」によると、発見までにかかる日数は平均17日。第一発見者で最も多いのは不動産の管理会社・オーナーで27.3%。家賃の催促で、やって来て、異変に気づく。次いでケアワーカー、配食サービスなどの「福祉関係の人々」が19.2%。「親族」が18.8%。

     「他人」(14.7%)が発見者になる場合は、近隣住民が「異臭」や「郵便物の滞留」に気づいて発覚するケースが多い。

     近所付き合いがあるかないかが“早期発見”のカギと言えるだろう。

     「ひとり酒」も危険である。孤独感や虚無感を紛らわせようとして、慢性アルコール中毒になる。その結果、肝硬変を患って、発作による意識混濁。助けを呼べずに死亡する。

     孤独が先か、お酒が先か、分からないが「ひとり酒」を繰り返し、健康を害するのは当たり前、悪循環である。

     慢性的な貧乏も孤独死の原因である。生活に困窮し、病気になっても、病院に行けない。薬が買えない。経済的な理由で、近所付き合いはできないから孤立する。

     大阪府の元資産家姉妹孤独死事件を覚えているだろうか? 11年1月8日、豊中市曽根西町のマンションの一室で、女性2人がやせ細った変死体で発見された。2人は元資産家の姉妹で、死亡時63歳、61歳。極度にやせ細り、所持金はわずか数百円。食料も底をついていた。餓死である。

     事情があって、突然、金持ちが貧乏人になった瞬間、「孤独死予備軍」になる。貧乏が「孤独死」の最大の原因かもしれないが。

     そして、もう一つ、新しい「孤独死」の原因が存在する。「ネット時代」の到来である。 若者の多くが「 ネットがあれば、生きていける!」と勘違いしている。

     職場で困ったことが起これば辞めちゃう。フラれるのが嫌だから恋愛はしない。会社を出たらひとりで飯を食う。買い物も遊びも友人との付き合いも、スマホ1台で完結してしまう。

    他人に接しないで生きていける!と勘違いする。若者の孤独死が増える原因は、そこにあるような気がするのだが。(毎日新聞客員編集委員)

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