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時事ウオッチ

自転車保険、義務化は有効か=飯田健

 <談論“西”発>

     この4月1日から京都府と京都市で自転車利用者に対して自転車保険への加入を義務付ける改正条例が施行された。この種の条例は関西では2015年の兵庫県を皮切りに、大阪府、滋賀県でも施行されており、京都もこれらに続いた形となる。

     条例の主要な目的は自転車事故を未然に防ぐことだ。ただし一様に違反に対する罰則は設けられておらず、その実効性には疑問も投げかけられている。

     もちろん自転車事故の防止は誰もが認める「良い目的」である。筆者自身、街中を歩いていて自転車にヒヤッとさせられることも少なくなく、事故で大けがをする可能性を考えると、その趣旨には大いに賛成である。

     しかしながら条例の施行によって利用者、事業者、行政の負担が新たに発生することもまた事実である。果たしてこの政策が実施に伴う社会的費用に見合うだけの効果をもつという保証はあるのだろうか。

     政策の立案・実施にあたって、所期の目的が達成されるよう、それを保証する証拠を求める考え方を「エビデンス(証拠)に基づく政策形成」という。国際機関や欧米諸国ではすでに積極的に採用されており、政策を立案する際には少なくともそれが有効であるという証拠を示すことが必要になっている。

     例えば、02年に米国では、その効果が科学研究によって立証されない教育政策には連邦予算を支出しないとの原則が法律で定められた。また、英国では酒税を調節することでアルコールによる健康被害や未成年飲酒を防止できるという、ある程度、確立された証拠をもとに酒税率に関する議論が行われている。

     一方、日本ではどうか。経済産業省など中央官庁を中心に近年、「エビデンスに基づく政策形成」への関心が高まっているものの、まだ十分に浸透しているとは言えない。実際、関西の自転車保険加入義務化条例についても、筆者が確認した限りでは議会の議論において、その実効性を示す証拠が示された形跡は見当たらない。

     それどころか関連する警察統計を見ると、関西各府県の自転車関係事故件数は義務化前から明らかに減少傾向にあるなど、条例の意義について説明が聞きたい証拠すら出てくる。そもそも保険に加入することで安心し、かえって運転が荒くなる「モラルハザード」が起きる可能性が考えられるなど、保険加入義務化による事故防止という理論的根拠自体も薄い。

     自転車利用者が人身事故を起こし、多額の賠償責任を負う事例も珍しくない昨今だ。保険加入義務化が一定の意義をもつことは確かだろう。しかし、そうした「良い目的」のための条例が増え続けることで、全体として膨大な社会的費用や行政の事務負担が発生する可能性も考慮すべきである。

     今回に限らず、たとえ誰もが納得する良い目的だったとしても、本当にその条例に費用に見合うだけの効果があるのか、もっと他に優先すべきことはないのか、事前に慎重に検討する必要があるだろう。


     関西の大学で教壇に立つ気鋭の研究者4人が交代で執筆します。次回は立命館大産業社会学部准教授の富永京子さんです。


     ■人物略歴

    いいだ・たけし

     同志社大法学部准教授。1976年、京都市生まれ。テキサス大博士課程修了。専門は政治行動論。近著に「有権者のリスク態度と投票行動」。

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