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メディアの風景

放送法「政治的公平」撤廃案 市民が注視し、声上げよ=武田徹

 政府の諮問機関の規制改革推進会議が“通信と放送の融合”を進める一環として「政治的公平」「事実をまげない」などを放送事業者に求めている放送法4条の撤廃を検討している。そう報じられて議論を呼んでいる。

     確かに米国は放送に公正さを求める「フェアネス・ドクトリン」をいち早く廃していた。日本でも規制緩和が市場を活性化すると説明されている。

     これに対して放送界は強く反発。と、聞くと耳を疑う人もいそうだ。たとえば2016年2月に高市早苗総務相(当時)が政権を批判した放送局に対して政治的公平を繰り返し欠く場合には電波停止もあるとにおわせた。こうして放送ジャーナリズムを抑えつける方便として使われてきた条文の廃止をなぜ歓迎しないのか、と。

     そこには規制緩和で新規参入が増えることに対する警戒感だけでなく、放送法4条が放送局にとって外からの偏向への要請を拒む防波堤として、また逸脱への誘惑を抑える内なる倫理規範としても機能していた事情がうかがえる。

     実際、米国ではフェアネス・ドクトリン撤廃後、偏りをいとわない局が増えた。日本でも、政権の真の狙いは自分たちに有利な“偏向”番組作りをネットだけでなく放送でも実現させることだとする見方もある。

     ならば、放送法4条に代えて、放送局自身の内規や番組検証の仕組みを充実させたらどうか。問題があれば軌道修正を促す権限を持つ独立行政法人を設立すれば、放送の健全性を守れないか--。この種のアイデアはすぐに思いつく。だが、それで報道機関の自主・自律が確保できるかどうかは不明だ。

     先の戦争中に大本営発表報道を担った反省から、戦後のNHKのかじ取りは外部の有識者を集めた独立組織としての経営委員会に委ねられた。だが国会の同意を得てその委員が決まるため、与党議員の圧倒的多数を背景に安倍晋三首相と懇意の委員が数多く任命され、独立性に懸念が生じたこともあった。

     政治や、それだけでなく特定の商業資本などからも適当な距離を保ち、自らを含むあらゆる権力に対して監視と批評の役目を果たす。そんな公共的なジャーナリズムを維持するには、ただ制度や組織を用意するだけでは不十分。それらがどのように運用されるかの実態を見極める必要がある。

     こうした事情を理解する「ジャーナリズム・リテラシー」とでも呼ぶべき力を市民社会が育み、危うい動きがあれば声を上げて孤立しがちなジャーナリズムを支える。それができるか否かがジャーナリズムの命運を左右しよう。今回の放送制度改革に対しても行方を注意深く見守るべきだ。(専修大教授、評論家)=原則第2木曜日掲載

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