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ぷらすアルファ

「土俵下りて」問題 「女人禁制」伝統に変化

もろみの温度を均一に保つ「櫂(かい)入れ」の作業をする杜氏の佐藤麻里子さん=埼玉県越生町津久根の佐藤酒造店で、椋田佳代撮影

ぷらすアルファ(α)

 大相撲春巡業の土俵上で京都府舞鶴市長を救命処置中だった女性に対して、土俵から下りるよう促す場内放送が流れ、「人命より伝統か」「女性差別だ」と問題視する声が相次いだ。「伝統」と「男女平等」が折り合える道はないのか。女人禁制の現状を取材し、考えた。【夫彰子、椋田佳代】

     「振り手がいなくて弱っていた」。京都府宮津市の元伊勢籠(この)神社で平安時代から約1200年続く女人禁制の神事「太刀振り」。2014年、太刀をあやつる振り手に女子の参加を初めて認めた地元・江尻地区の当時の自治会長で氏子総代の猪隼武男さん(73)はそう振り返った。

     太刀振りは毎年4月24日に営まれる祭りの神事で、地元3地区の男性が担ってきた。しかし、少子化の影響で振り手が減少。伝統を残そうと、約150世帯で構成する江尻地区は議論を重ね、口紅や髪飾りを付けない条件で女子が参加する。ここ数年の女子参加者の一人で、中学時代から振り手を務める府立宮津高2年の斉藤真里奈さん(16)は「小さいころから太刀振りをする男の人を見てうらやましかった」と語る。「変えてはいけない伝統もあるけど、現代のスタイルに合わせて変わっていくことも大事では。太刀振りは難しい演目もあり、性別より個人のやる気とどれだけ楽しめるかだと思う」と話す。

     女人禁制を掲げてきたのは大相撲の土俵に限らない。よく知られているのが大峰山(奈良県)の山上ケ岳など一部の霊山や、博多祇園山笠、岸和田だんじり祭といった伝統的な祭りだ。歌舞伎(子役を除く)など一部芸能もあり、意外に多い。

     ●背景に穢れの概念

     こうした女人禁制の背景には、日本古来の「穢(けが)れ」の概念がある。月経や出産など肉体の一部が体から離れる現象を忌まわしいものとみなし、神聖とされる場所や物に女性が触れることをタブー視する考えだ。鈴木正崇・慶応大名誉教授(文化人類学)は「土俵の女人禁制も穢れの概念が根底にある」と語る。

     鈴木名誉教授によると、相撲そのものは平安時代には存在していたが、土俵や「横綱」という格付けが誕生するなど、男性同士の大相撲の形が整えられていったのは江戸時代になってから。庶民たちは女性同士の女相撲や男女混合の相撲にも親しんでいたが、大相撲の世界では五穀豊穣(ほうじょう)を祈る儀式「土俵祭」を導入するなど、土俵の神聖化が進んだ。1909年には東京・両国に相撲常設館が誕生。「ナショナリズムの高揚という社会風潮も手伝って」(鈴木名誉教授)、大相撲は「伝統的国技」という立場を強め、土俵の女人禁制も伝統として肯定されてきた。

     一方、女人禁制が廃止された世界も少なくない。

     高野山(和歌山県)をはじめ多くの霊山では、「女人禁制は非文明的で遅れている」とする明治政府の文明開化策により、19世紀末ごろから女人解禁が一気に進展。修験者ら男性の世界だった山岳は、老若男女の趣味・スポーツの場へと大きく変わった。宮津市の「太刀振り」のように、少子化が解禁を後押しした祭りもある。最近では20年東京五輪のゴルフ会場「霞ケ関カンツリー倶楽部」(埼玉県川越市)が、男性に限っていた正会員を女性にも認める方針を決めた。男性限定は男女平等をうたう五輪憲章に反するとの批判が、契機になった。

     ●神事と式典分けて

     「どんな伝統も時代の影響を受けながら少しずつ微妙な変化を続けてきた。変化しなければ生き残れない」と語る鈴木名誉教授によると、大相撲の伝統も実は「変化」と無縁ではないという。その最たる例が千秋楽の表彰式だ。

     大相撲では取組に先立ち、「土俵祭」で神を土俵に招く。伝統に沿うなら土俵に神がいる間は力士や行司しか土俵に上がれないが、「神を帰す儀式(神送り)の前に表彰式を開き、力士や行司ではない首相らを土俵に上げている」からだ。

     鈴木名誉教授は「女性を土俵に上げるのは禁忌を犯すので避けたいという相撲協会の価値観は、現代人には理解されないだろう」と指摘。両者の溝を埋める方法の一つとして、男性は伝統の例外、女性は伝統通りという今のダブルスタンダードを改め、「表彰式や関係者のあいさつを神送り後に変えればいい。儀式が済めば土俵は神聖ではなくなり、男女誰でも上がれる場所になる」と提案する。

    増える女性杜氏 近代化・若返り進み

     女人禁制が過去のことになった酒蔵がある。

     埼玉県越生(おごせ)町で清流が流れる環境を生かした酒造りをしている「佐藤酒造店」には、女性杜氏(とうじ)の佐藤麻里子さん(27)がいる。江戸時代後期の1844年の創業で、6代目の佐藤忠男社長の長女だ。酒造りは女人禁制の伝統があり、蔵には2014年まで入り口に「女人禁制」の木札が掲げられていた。この年に蔵を建て替え始め、麻里子さんが杜氏になった。一緒に作業する蔵人も全員が20代に若返った。近代的な今の蔵に木札はなく、昔の名残は感じられない。

     大学は情報学部でITなどを学んだ。家業を継ぐつもりはなかったが、勉強の合間に酒蔵に併設する直売店で接客を手伝ううちに、酒造りに興味を持った。同じ水や米、外気温で仕込んでも、出来上がりが同じになるとは限らない。「答えがないのが面白い」と魅了された。

     「祖母や母は蔵に入らなかったと思う」と前置きしつつ、麻里子さんは「妊婦は良くないと言われていたが、私は違うのでいいかなって」と軽やかだ。仕事の手ほどきを受けた男性の杜氏は40代と業界では若く、性別にこだわらず酒造りを教えてくれた。

     「かつて外部から杜氏を呼んでいたころは伝統的な慣習が残っていたかもしれない。でも、地元の社員杜氏に変え、年代も若返った。蔵に入る女性も増えている」と麻里子さんは語る。主要な杜氏組合が加盟する日本酒造杜氏組合連合会によると、17年度の女性杜氏は18人。連合会は数年前から女性の統計を取り始め、組合員以外を含めると全国で数十人程度いるとみられる。

     化粧は匂いが移る上、利き酒の際に口紅で味が変わるので、麻里子さんは仕事中ノーメークだ。9月から翌年5月までの仕込みの時期は、夜中も含めて2時間おきにもろみの状態を確認する。

     力仕事は無理でも、細かい部分に目が届くのが麻里子さんの良さだ。「お酒は杜氏の性格に似ると言われている。今のお酒はきめ細かくすっきりした味に仕上がっている。目標にしている酒がそうなので、良かったかなと思っています」と笑顔を見せた。

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