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社説

米英仏軍がシリア攻撃 対立の泥沼化を懸念する

 米国が再びシリア攻撃に踏み切った。昨春の単独攻撃と違って今度は英仏との共同軍事作戦であり攻撃規模も大きい。首都ダマスカス近郊も攻撃対象に含めたのは、政権存続をめざすアサド大統領への強い揺さぶりとも言えよう。

     シリアでは7日、ダマスカス近郊への空爆直後に呼吸困難を訴える市民が続出し、化学兵器(塩素ガス)が使われたとの見方が広がった。

     アサド政権と後ろ盾のロシアは使用を否定しているが、シリアでは政権側の関与が濃厚な化学兵器攻撃が多発しており、トランプ米大統領は英仏とともに「正義の力」を示す必要があったと説明している。

    露の拒否権行使も問題

     確かにアサド政権の行状は目に余る。オバマ前米大統領が2013年、政権側の化学兵器使用に対して懲罰攻撃を予告した時、ロシアはアサド政権に化学兵器の廃棄を約束させて攻撃を回避した。

     その約束はどうしたのかとトランプ氏がロシアとアサド政権双方を批判するのはもっともだ。13年に懲罰攻撃を支持したフランスは、オバマ政権の「弱腰」がロシアのクリミア半島占領を招いたと考えてきた。

     13年は米国に同調しなかった英国も、自国で起きた元ロシア人スパイ暗殺未遂に関してプーチン露政権への反発を強めた。英仏の攻撃参加は、アサド政権に対する国際的圧力の強まりとともに、欧州諸国とロシアの対立を際立たせている。

     この攻撃が国際法上、正当なのかという疑問もあろう。国連安保理決議に基づく米英仏軍などのリビア攻撃(11年)が状況を複雑にしたように、軍事行動が最善の選択だったのかといった疑問もあろう。

     だが、ロシアは安保理でシリア関連の決議案に計12回も拒否権を使い、国際社会はシリアの人道危機への対応に窮した。国連の機能不全との批判もあるが、その責任は主にロシアにあると言わざるを得ない。

     無論、米国の軍事行動でシリアの内戦が終わるわけではない。現に昨年4月、米軍が59発の巡航ミサイルをアサド政権軍の拠点に撃ち込んでも情勢は変わらなかった。

     それはトランプ政権が内戦終結に向けた外交工作に消極的だったためだ。今回は巡航ミサイルや空対地ミサイルを計100発以上使い、3カ所の化学兵器関連施設を攻撃したが、一過性の軍事行動よりも長期にわたる政治的な取り組みが必要だ。

     この際、米国は発想を変える必要があろう。トランプ政権にとってシリアはもっぱら過激派組織「イスラム国」(IS)を掃討する戦場だった。だからISの退潮が顕著になるとトランプ氏はシリアからの早期撤退を主張し始めた。

     その後、早期撤退論は保留したとはいえトランプ氏に明確な対シリア戦略があるとは思えない。しかも攻撃に関する声明でトランプ氏はアサド政権を支援するロシアとイランに挑発的な表現で態度変更を促した。

     だが、それに怒ってロシアがアサド政権へのテコ入れを強めれば、政権軍はさらに優勢になり人道状況も悪化しかねない。トランプ氏はそこまで考えているだろうか。

    中東情勢の不安定化も

     また、米国はイランとの核合意について5月中旬までに態度を決める方針だが、今回の攻撃を境に米・イラン関係がさらに悪化し、両国内で合意破棄の動きが強まることも懸念される。破棄となれば中東情勢は一気に不安定化するだろう。

     北朝鮮問題への影響も考えられる。シリアやイランの友好国である北朝鮮はシリアで核関連施設の建設も支援した。07年にイスラエルがこれを空爆で破壊し両国の協力が明るみに出たが、化学兵器開発でも北朝鮮はシリアに協力したとされる。

     トランプ氏が政府内の慎重論を抑えて攻撃したのは、5~6月の米朝首脳会談を控えて北朝鮮に弱腰と見られたくなかったからでもあろう。だが、ロシアとイランが北朝鮮に働きかけ、米国との核廃棄の合意を妨げる可能性も捨てきれない。

     グテレス国連事務総長は各国の対立の激化と、本格的な冷戦の再燃を懸念した。情勢は確かに厳しいとはいえ、いま最も大切なのはシリアの人道危機を直視することだ。

     7年に及ぶ内戦で35万人以上が死亡し、国内外で1000万人を超す避難民が出ている。米露が対立を乗り越えて協力しなければ状況は泥沼化するだけだ。人道危機の解決に役立ててこそ「正義の力」である。

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