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地方はいま/4 奈良県十津川村 橋修繕、許さぬ財政

 朝からの説明会は予定の時間を超えても続いた。4月上旬、奈良県十津川(とつかわ)村の集会場。村がダムの底にたまった土砂の捨て場を近くに造る計画を説明すると、住民から発言が相次いだ。

     「歩道のない狭い橋を重機やダンプが頻繁に通ることになる。おばあちゃんが手押し車で歩かれへん」「近くのつり橋、直してもらえんのか」。73年前に架けられ、2015年に通行止めとなったつり橋「猿飼(さるかい)橋」の修繕を求める声が上がると、村の担当者が現状を訴えた。「村は通行止めの橋が日本一多い。もっと通行量が多くて危険な橋の修繕を優先したいので……」

     紀伊半島の中央にある山間の村は「広さ日本一」だ。県の5分の1を占める面積に約3300人が点在して暮らす。南北を熊野川が貫き、支流を合わせた川沿いに集落が集まるため村道には45のつり橋を含めて173の橋がかかる。

     国は14年、老朽化した橋の修繕を促すため長さ2メートル以上の橋の定期点検を義務付けた。健全度を、問題ない「1」から通行止めが必要な「4」まで4段階で評価することも求めた。村は4が全国の自治体最多の12橋、早期の修繕が必要な3も66橋あった。

     4の12橋はつり橋だ。2橋は修繕、4橋は撤去と決めた。残り6橋も村は撤去したいが住民の反対で方針が決まらない。猿飼橋もその一つ。近くの女性は「今は離れた橋を車で渡れるが、いずれ運転できなくなるかも。対岸での買い物も不自由になる」と心配する。

     3の66橋には大きな橋も多い。1橋の修繕費は数千万円に及ぶ。村は年間8億~10億円の予算で、道路や橋の建設から修繕まで、すべての土木工事をやり繰りしてきた。鎌塚康史建設課長は「国は5年後までの修繕を求めるが、とてもできない」と打ち明ける。

    点検で「早期の修繕が必要」と判定されながら、予定が決まらない「中谷橋」に立つ中西祥夫さん。点検前から村に、さび付いた欄干の危険性を指摘していた=奈良県十津川村で3月

     築41年の「中谷橋」も3なのに修繕のめどが立たない。15年の点検で橋げたをつなぐボルトの脱落が判明したが、今もそのままだ。

     橋の先には数軒の家のほか、水力発電用のダムや世界遺産の熊野古道につながる登山道がある。集落の代表、中西祥夫さん(79)は「放置で傷みが広がり通行止めになれば、生活にも産業にも影響が大きい」と困惑する。

     人口は10年前から4分の1減り、税収も減少が見込まれる。村は新設工事にかけてきた予算を修繕に回して、しのごうとしている。

     約80世帯が暮らす折立集落の一部は山を背後にした険しい斜面にある。元教師の玉置辰雄さん(86)にとって、自宅近くまでの道路の延伸は30年来の悲願だった。今までは下の国道沿いに車を止め、急な坂道を上り下りしていた。「肩と腰には湿布を貼ったまま。道が通ればどんなに楽か」。集落は要望を続けてきたが、着手の時期は見通せない。

     家から見下ろせる橋は7年前、13人の犠牲を出した大水害で流された。老朽化が原因ではなかったが、落橋を目の当たりにして点検や修繕の大切さは身にしみている。「『俺が元気なうちに造ってや』と言っとるけど後回しも仕方ない」と苦しい胸の内を明かした。

     「人口減に老朽化。一番後ろを走っていた村だった」。鎌塚課長は振り返る。だが全国的に対策が本格化した今、「あんたんとこトップランナーやな」と逆に注目されることが増えた。国は自治体に今年度中の点検完了を求めるが、村はすでに終えた。対策でも先頭に立てるだろうか。【安高晋】=つづく


    築年数不明、全国で23万

     日本の橋は全国に約73万橋ある。築50年を経過した橋の割合は2017年3月現在で約23%だが、10年後には約48%に急増する。築年数不明も現時点で約23万橋に上る。

     2007年、米ミネソタ州の高速道路に架かる築40年の橋が突然崩落して13人が死亡。国は橋の点検を自治体に促すようになった。

     16年度までに全体の54%が点検を終えた。健全度は1(問題ない)が39%、2(予防のため修繕が望ましい)が50%、3(早期の修繕が必要)が11%、4(通行止めが必要)が0・1%。十津川村の橋は3が38%、4が7%で全国平均を大きく上回る。

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