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SUNDAY LIBRARY

岡崎 武志・評『「五足の靴」をゆく』『日本酒の人』ほか

今週の新刊

◆『「五足の靴」をゆく』森まゆみ・著(平凡社/税別1600円)

 今は岩波文庫で読める、五人づれ著『五足の靴』。明治40(1907)年夏、年上の与謝野寛(鉄幹)を筆頭に、学生だった太田正雄(木下杢太郎)、北原白秋、平野萬里、吉井勇の5人が、ひと月余り、九州を旅行した記録であった。

 森まゆみはこれを「明治の修学旅行」とし、彼らの足跡を追った成果を『「五足の靴」をゆく』に書いた。柳河(現・柳川)、佐賀、唐津、佐世保、長崎、熊本と、100年以上前の旅程は、悪路や鉄道馬車、石油機関車など過酷だったことを体感する。

 5人の目的は南蛮文化への興味にあったが、ときに遊郭に足を取られ、肝心なものを見ない時は、「残念きわまりない」と苦言を呈している。しかし、隠れキリシタンはじめ、この地の異国情緒体験は、白秋『邪宗門』や杢太郎『南蛮寺門前』などに作品化された。

 最適の現地ガイドを得て、約100年後の著者は、5人が触れ得なかった歴史と現在の姿を伝える。二重に面白い紀行文である。

◆『日本酒の人』山同敦子・著(フィルムアート社/税別1800円)

 吉井勇は「杯はいまはとどむるひともなしこの春寂し酒は汲めども」と詠んだが、この「酒」は「日本酒」だろう。山同敦子編著・写真『日本酒の人』は、「その一滴に、魂を込める」全国の杜氏(とうじ)たちを取材する。

 福島県会津坂下「廣木酒造本店」9代目は、大学卒業後に洋酒会社に就職、のち家業を継いだ。杜氏の辞職、父の急逝などのどん底を経験した。出会えた人の「自分自身を表現するお酒」をというアドバイスを励みに、人気銘柄「飛露喜」を生み出す。

 神奈川県茅ケ崎市「熊澤酒造」社員の五十嵐哲朗は、地ビールで当てたが、素人集団で酒造りに乗り出す。「湘南らしい酒を造れ」と社長。それは「自分たちが飲みたい酒」だと、試行錯誤と追求の果てに「天青」が誕生。「失敗を恐れる必要はない。おかげで遊び心も生かせます」と言う。

 古き日本酒に新しさを吹き込む。5人の杜氏たちの仕事と生き方は、最高にかっこいい。

◆『万事正解』角野卓造・著(小学館/税別1200円)

 妻と姑に挟まれ、苦笑いをする「渡る世間は鬼ばかり」の小島勇が当たり役。いつのまにかそこにいる角野卓造。気になる存在だが、『万事正解』は、多種の趣味と「ひとり」の自由な時間を大切にして生きていることがわかる。居酒屋でもあえて「ひとり」。そこで「いい関係をつくるのは、自分」だと言う。手製メモ用紙に、細かく使ったお金や時間を書き付ける。マメなのかと思ったら「計画は立てない」。仕事で出会った俳優たち、父親との関係なども語られ、感じ入ることの多い一冊。

◆『戦場から生きのびて』イシメール・ベア/著(河出文庫/税別980円)

 カバー写真の少年は、12~15歳まで、アフリカ西部の街で起きた内戦の最前線で銃を持って戦った。イシメール・ベア(忠平美幸訳)『戦場から生きのびて』は、その回想。悲鳴と銃声、地面に転がる遺体。妊婦の腹を裂いて、胎児を取り出して殺す反乱兵たち。

 「やつらを皆殺しにしなければならない」と彼らは言った。全ページに危険と死の匂いがたちこめ、それを感受するのが10代の少年と考えると息が詰まる。少年は無事生き延び、大学を卒業し、ユニセフ親善大使となった。

◆『茶と琉球人』武井弘一・著(岩波新書/税別780円)

 沖縄の歴史は占領の歴史だ。中国、日本、戦後はアメリカの支配下にあり、いまも基地問題が横たわる。琉球大准教授の武井弘一は『茶と琉球人』で、近世には薩摩藩の支配下にありながら豊かに自立していた沖縄を、茶との関係で考える。茶は、どこから来て、どう根付いていったか。消費と流通は? 琉球人が愛し、球磨(くま)地方で栽培された「球磨茶」の味は「なかなかいい香りで、これにくらべれば普通のお茶」は飲めないという証言あり。まったく新しい切り口で、沖縄の生活史が明らかになる。

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岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』『気がついたらいつも本ばかり読んでいた』など

<サンデー毎日 2018年4月29日増大号より>

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