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南光の「偏愛」コレクション

コンクリート建築の「野獣」 安藤忠雄さんの巻

建築への信念について熱く語る安藤忠雄さん(右)と桂南光さん=大阪市北区で

 ラジオを聞き桂枝雀という「人」にほれ込んだのがきっかけで、落語家の道に進んでもうすぐ半世紀。桂南光さんは、仕事も趣味も、好きになったらとことんハマるのが身上の「偏愛人」です。そんな南光さんが、同じく愛するものに並々ならぬ情熱を注ぐ人々に話を聞く「南光の『偏愛』コレクション」。初回ゲストは、世界的建築家の安藤忠雄さんです。「野獣」の異名を持つパワフルな表現者の魅力に迫るべく、大阪市にある安藤さんの事務所を訪ねました。【山田夢留、写真・菅知美】

ありふれた素材で攻める妙味

 事務所は、代名詞であるコンクリート打ち放しの建物。内部は自然光が注ぐ吹き抜けの空間が広がり、壁面の本棚には書物がびっしり並ぶ。

 2人の出会いは40年以上前。南光さんはテレビ番組のリポーターとして訪れた「住吉の長屋」で、初めて安藤建築に触れた。「中庭で顔上げたら、空が切り取られてた。『あの空が、自分とこのもんになるんや』って、すっごい感動しました」。三軒長屋の真ん中にコンクリートの箱をはめこんだような住居は中心に中庭があり、当時は「使いにくい」と批判を受けた。「自分の空が、体の中に入ってくるようなものを作りたかった」と、南光さんの賛辞に応えた安藤さん。「家は便利で快適なだけでいいのか、という気持ちがあった。心の中の世界を作るのが建築なんですよ」。今も変わらぬ哲学だという。

 「住吉の長屋」には42年間、同じ住人が暮らす。採光や通風の工夫で空調は不要。「あとは自分の体力で生きる。不便だけど合理的でしょ。この事務所もそうです。大きな声出したら、すぐ全部に届く」。安藤さんはそう言うと壁際を指さし、「僕はあのはしごで上り下りするから、肩凝りもないしね」とにんまり。

 これまで世界各地に名建築を残してきた安藤さんだが、コンペでは何度も敗北を経験したという。東大大学院での講義をまとめた著書のタイトルは『連戦連敗』。「コンクリートは冷たい・作りにくい・寒い。文句言うところがいっぱいあるしね」。淡々と語る姿に、南光さんは一番聞きたかった質問をぶつけた。「それでも、コンクリートを偏愛されるのはなぜなんです」

 「コンクリートというのは世界中どこに行っても一緒。砂利と砂とセメントでできる。誰にでも手に入る材料で、誰にもできない建築を作りたい」。安藤さんは即答すると、「噺家(はなしか)もそうでしょう。ギリギリのところを偏愛した分だけ、『この人は追求してる』と反応してくれる人がいる」。誰もが手がける古典落語で、誰とも違う芸を見せてきた南光さんが「なるほど」とうなった。

 1990年代から携わる芸術の島・直島(香川)に、5年前オープンした「ANDO MUSEUM」では、古民家の中にコンクリートの空間を作った。「あそこに安藤建築が凝縮されてますよね。でも先生、お金のこと考えてへんでしょ」。古いものの再生は、壊して作るより経費がかさむ。そうツッコむ南光さんに、「考えてますよ」。原資を捻出するため直島でしか買えない写真集を出版し、年4500冊を売り上げていると胸を張った安藤さん。写真集の定価と原価を赤裸々に明かすと、南光さんは「失礼しました」と頭をかいた。

 「大阪人はお金ではなく、責任を考えるんですよ」。そう続けた安藤さんがもう一つ偏愛するのは、地元・大阪の街。東京や海外に拠点を移さない理由は「愛着があるんです」とシンプルだ。愛する街への恩返しとして昨年、子どもが本に親しめる施設を寄贈すると発表し、目下、寄付集めに奔走中。「電話やメール、手紙じゃダメ。企業に一人で乗り込むんです」。すでに運営費30万円×5年の支援を400社から取り付けたという。「腕力は大事」。そう言って高らかに笑う安藤さんに、「文化勲章もろて、東大へ教えに行って、エライ人になっても、先生は全然変わりませんねえ」。南光さんは称賛のまなざしを送った。


 ■人物略歴

あんどう・ただお

 1941年大阪生まれ。独学で建築を学び、79年、「住吉の長屋」で日本建築学会賞。代表作に「光の教会」「淡路夢舞台」「フォートワース現代美術館」など。2009年と14年にがんの手術を受けたが、スポーツジム仲間でもある南光さんによると「ジムで先生が一番元気」。

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