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社説

セクハラと日本社会 これが21世紀の先進国か

 セクハラの実態を正確につかむことは不可能に近い。被害がなかなか報告されないのだ。なぜか。

 財務事務次官を辞任した福田淳一氏のセクハラ問題は、その答えをわかりすぎるほどわからせてくれた。

 調査もせず口頭注意で済ませる。それが発覚直後の財務省の態度だった。報道した週刊新潮が問題発言の録音を公開し、「調査」を始めたが、被害者に「名乗り出よ」と言わんばかりの乱暴な手法だった。

 福田氏は「全体として見るとセクハラではない」と説明にならない説明を繰り返し、法廷で争うという。

 だが最も深刻なのは、次官を監督する立場にある閣僚が、セクハラの本質やその重大性をおよそ理解しているとは言い難い点である。

被害者批判の理不尽

 「(加害者扱いを受けている)福田の人権は、なしってわけですか」「(福田氏が女性に)はめられて訴えられたとの意見も世の中にはある」。安倍政権ナンバー2の副総理でもある麻生太郎財務相は、福田氏をかばう一方で、被害女性があたかも福田氏をワナにかけたかのような発言をためらいもなく重ねた。

 財務省はようやく福田氏のセクハラを認め、処分を発表したが、その場に麻生氏の姿はなかった。セクハラと正面から向き合うという姿勢がみじんも感じられない。

 21世紀の先進国政府で起きているとは信じ難い恥ずべき事態である。「女性の活躍」を看板政策に掲げる安倍晋三首相はなぜ怒らないのか。

 さらに驚くのは、女性側の仕事に制限を求めるような主張が少なくないことだ。日本の経済界を代表する経団連の榊原定征会長は、福田氏の行為を「極めて不見識」と批判する一方、記者が異性と1対1で会うことは「さまざまな誤解を生みかねない」と記者会見で述べた。

 取材を受ける側の大半が男性である現状と合わせて考えれば、女性記者は誤解を招かぬよう夜間の1対1の取材は控えよ、という意味になる。また、異性間のセクハラのみを前提にするのも時代遅れだ。

 影響力のある人たちによる見当違いの発言は、被害者たたきをしても構わないという間違ったサインとなる。インターネット上で中傷が勢いづく。セクハラに甘い環境はそのままで、被害はいつまでも減らない。

 今回のセクハラ問題は被害者が記者だったことから、報道する側の倫理を問う意見も少なくなかった。

 まず、セクハラにせよパワハラにせよ、被害者の職業は無関係だということを指摘しておく。政治家でも警察官でも被害者は守られるべきだ。その上で述べたい。

 セクハラの立証は非常に厳しい。音声や画像など客観的証拠が乏しければ、逆に加害者から名誉毀損(きそん)で訴えられかねない。今回の録音は被害を訴える際不可欠な証拠である。

社会全体が損をする

 セクハラ被害の報告を受けたテレビ朝日は自ら財務省に抗議し、そのことを報じるべきだった。それができなかったがために、記者はやむなく情報を週刊誌に提供した模様だ。もし彼女が途中であきらめていたら、今も福田氏はセクハラ発言を続けていたことだろう。

 今回の事例は氷山の一角だ。声を上げられないまま精神を病んだり、命を絶ったりする被害者もいる。発信の手段を持つ記者でさえ、セクハラと闘おうとすればひどい目に遭う。今回の事例が多くの女性に無力感を与え、口をつぐむ被害者が増えはしないか心配だ。

 あらゆるハラスメントは悪い。ただ、男性被害者も多いパワハラに対し、セクハラの被害者は女性に集中している。有効な防止策が打たれず被害が闇に葬られ続ける背景には、改善を主導できる地位にあまりにも女性が少ない現実がある。

 働く女性が性的対象としてしか見られない、尊厳が傷つけられてもあまり問題にされない社会で損をするのは女性ばかりではない。社会全体が活力を失い、国際社会からも尊敬されない国になる。

 英国では先週、女性の参政権100周年を記念し、運動家ミリセント・フォーセットの銅像が国会議事堂前の広場に建立された。「勇気は至る所で勇気を呼ぶ」。自身の演説の一節を記した旗を手にしている。

 基本的な権利を守ろうと立ち上がった一人の勇気がつぶされ、至る所で勇気の芽が摘まれる。そんな国は、現代の国際社会で名誉ある地位を占めることなどできない。

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