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日本国憲法71年

迷走続く9条改憲 変わらぬ海の不安(その2止)

イカ釣り漁船「第5成雄丸」の船上で、乗組員が北朝鮮のミサイルとみられる光を見つけた時の様子を話す府中雄信さん=石川県能登町で2018年4月20日午前7時50分、金子淳撮影

「自衛隊より海保」 日本海側、ミサイル・不審船に直面

 冷たい夜空に漁船のエンジン音が響いていた。2017年11月29日未明、日本海沖のイカ漁場「大和(やまと)堆(たい)」付近。イカ釣り漁船「第5成雄丸」の府中雄信(たかのぶ)船長(56)=石川県能登町=は、船内テレビの速報に作業の手を止めた。「また撃ったのか」。北朝鮮がミサイル実験を行ったらしい。

     「きっと近くには来ないだろう」と仕事に戻って1時間後。「赤い光が西から東へ飛んでいくのが見えた」。右舷で作業していた乗組員たちからの報告に驚かされた。ミサイルは青森県西方約250キロの日本海に落下していた。操業海域から百数十キロ。脅威を実感した瞬間だった。

     北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)政権は核・ミサイル開発を進め、昨年は中距離弾道ミサイル「火星12」(射程約5000キロ)や大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星14」(同約1万キロ)、「火星15」(同約1万3000キロ)の発射実験を繰り返した。うち2発は北海道上空を越えて太平洋に着水。3発は日本海の日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下した。

     「日本は本当に迎撃なんてできるのか。我々の命は誰が守ってくれるんだ」--。4月27日の南北首脳会談では、「核のない朝鮮半島の実現」が宣言されたが、非核化に向けた具体策は示されなかった。6月から始まる漁期を控え、漁業者の懸念は消えない。

     不安を駆り立てるのはミサイル実験だけではない。日本海沿岸には北朝鮮籍とみられる木造船の漂着が相次いでいる。いずれも工作船ではなく遭難した漁船とみられるが、拉致被害を想起する住民も少なくない。

     石川県志賀町(しかまち)。金森美津雄さん(74)が漂着船を見つけたのは2月13日、みぞれの降りしきる寒い朝のことだった。岩のりの生育状態を見に浜を歩いていると、長さ10メートル余の漁船が岩場に打ち上げられていた。オレンジ色のライフジャケットが1着引っかかっている。すぐに北朝鮮の漁船と感じた。「拉致問題のこともある。もし誰かいたらと思うと不安だったね」

     海上保安庁によると、北朝鮮籍とみられる木造船の漂着は昨年だけで104件(前年比38件増)に上り、35人の遺体を確認。生存者も42人いた。いずれも大和堆で違法操業中に遭難し、流れついたとみられる。

     大和堆は日本のEEZ内にある伝統的な日本の漁場だ。だが、全国いか釣り漁業協会(東京都)などによると、16年ごろから北朝鮮の旗を掲げる漁船が出始め、昨年は「1000隻ぐらい来た」(地元漁師)。明かりも持たない木造船は、集魚灯を掲げる日本船の周りに集まり、手の届くぐらいまで近づいてくるという。第9管区海上保安本部は現場海域に巡視船を派遣し、違法漁船に警告したり放水したりしているが、拿捕(だほ)したことはない。

     漁業者の間には、憲法を改正して国防を強化すべきだとの声もある。だが、石川県漁協小木支所の神谷洋志郎さん(61)は言う。「自衛隊を派遣してもどうなるか分からない。それより海保が1隻でも拿捕すれば効果はあるはず。とにかく安全に操業させてほしい」

     北朝鮮の核・ミサイル実験が相次ぎ、米国が昨年、原子力空母3隻を朝鮮半島周辺に展開するなど緊張が高まる中、日本政府内では「敵基地攻撃能力」の保有を巡る議論が起きている。相手がミサイルを発射する前に基地などを先制攻撃する能力だ。

     政府は「自衛の範囲」だとして憲法上も可能との立場を取るが、専守防衛の観点から現状では保有していない。だが、18年度予算には先制攻撃に転用可能な長射程巡航ミサイルの関連経費が計上された。敵基地攻撃能力の獲得は抑止力につながる可能性がある一方、北朝鮮や中国などの周辺国を刺激するのは必至で、東アジアの軍拡競争につながる懸念もある。

     「自衛隊の存在を憲法上にしっかりと位置づけるべきだ」。安倍晋三首相は昨年の憲法記念日に寄せたビデオメッセージで憲法9条改正に意欲を示した。一方、国会などでは「(改憲しても)自衛隊の任務や権限は変わらない」と繰り返し説明している。果たして9条改正で北朝鮮と向き合う住民の不安は消えるのか--。志賀町で不審船を見つけた金森さんは漏らす。「憲法を変えるっていっても、私たちには遠い話。まずは住民の命を守る対策の実行が先だ」

    統治行為論で先送り 国民に論争、判断避ける司法

     自民党が改憲案で明記することとした自衛隊を巡っては、これまでも「戦力の不保持」などを定めた憲法9条に違反するかどうか、司法の場で論争が繰り返されてきた。だが、最高裁は正面から判断してこなかった。

     その論理として用いられたのが「統治行為論」だ。米軍基地に侵入したとしてデモ参加者が日米安全保障条約に基づく刑事特別法違反で起訴された「砂川事件」で、最高裁は1959年、駐留米軍を「戦力」に当たらないと判断しつつ、安保条約については「高度の政治性を有し、一見極めて明白に違憲無効と認められない限りは司法審査の範囲外」と憲法判断しなかった。この考え方が、以後の裁判にも影響を与えた。

     航空自衛隊ミサイル基地の国有林伐採について、住民らが国の伐採許可取り消しを求めた「長沼訴訟」では、1審・札幌地裁が73年に「自衛隊は『戦力』に当たり違憲」と判断。しかし2審の札幌高裁は76年、統治行為論に基づいて合憲性の判断を回避し、最高裁も支持した。

     ある元最高裁判事は最高裁の姿勢について「司法はトラブル解決に必要な範囲で法律判断する。解決に不要なのに、国民の間で議論が分かれている憲法解釈について進んで判断することは望ましくない」との見方を示す。

     憲法問題に詳しい伊藤真弁護士は「最高裁が自衛隊に正当性を与えなかったことが政府の抑制的な運用につながった面はあるが、その消極姿勢が数の力で憲法秩序を変えようとする政治の動きを助長してきたのではないか」と分析。その上で改憲案を「戦力不保持をうたった9条2項が骨抜きになり、自衛隊の役割や存在感が大きくなる。おそらく違憲論争には終止符が打たれるが、国の形は大きく変わる。『何も変わらない』という首相の説明を信じるのは危険だ」と指摘した。

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