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社説

みどりの日に考える 豊かな森の恵み守るには

 群馬県みなかみ町の利根川源流域に「赤谷の森」と呼ばれる面積約1万ヘクタールの国有林がある。林野庁と日本自然保護協会、地域の住民団体の3者が協働し、生物多様性の回復と持続可能な地域づくりに挑戦中だ。

     その一環として、3000ヘクタールある人工林のうち、林道から遠いなど木材生産に適さない2000ヘクタールを自然林に戻す取り組みが進む。

     2015年と17年には、森に生息する絶滅危惧種のイヌワシの餌場にするため、スギの人工林計約3ヘクタールを皆伐した。伐採地は再植林せず、自然林に戻るのを待つことにした。

     伐採地には狙い通り、ノウサギなどイヌワシの獲物が顔を出すようになった。ミズナラなど地域本来の広葉樹の稚樹も生え始めている。

     林業に向かない他の人工林も、間伐して広葉樹が入り込みやすい環境をつくるなどして、徐々に自然林に近づけていく計画だ。

    人工林を自然林に戻す

     木材の生産を前提に植林された人工林は、成長の過程で間伐などの適切な維持管理が欠かせない。

     一方、地域本来の自然林が再生すれば生態系の回復につながり、間伐などをせずとも治山や水源涵養(かんよう)などの公益的機能も保てる。今後の森林整備の一つのあり方だろう。

     日本は国土面積の約3分の2(約2500万ヘクタール)を森林が占める。

     ところが、1950年代半ばからの拡大造林政策で造られた私有人工林を中心に荒廃が懸念されている。

     拡大造林では建材用などとしてスギやヒノキなどの針葉樹を植えた。だが、木材の輸入自由化などの影響で国産材の価格や需要は低迷し、伐採期を迎えても手入れが行き届かないままの人工林が多い。これでは公益的機能の発揮もおぼつかない。

     そんな現状を踏まえ、政府が今国会で成立を目指しているのが、森林経営管理法案だ。

     同法案は、森林の所有者に森林を育て、伐採し、造林する経営管理の責務があることを明記した。所有者が適切に管理できていない森林は、一定の手続きを経て、所在地の市町村に経営管理権を設定する。

     林野庁によれば、経営管理権の設定が必要な私有人工林は400万ヘクタールを超えるとみられるという。

     このうち林業経営が成り立つとみられる私有林については、市町村が「意欲と能力のある林業経営者」に経営管理を委託する。それ以外の私有林は市町村の管理下に置き、将来的には自然林に戻していく。

     市町村が管理する私有林の費用については、24年度から1人当たり1000円を住民税に上乗せして徴収する予定の森林環境税をあてる。

     森林の公益的機能を考慮すれば、林業経営に適さない私有林の管理を市町村に委ねるという方向性は理解できる。だが、課題も多い。

     森林問題に熱心な市町村は多くない。総務省の調査では、林業専従職員が不在か1人の市町村が全体の3分の2を占める。実際の管理作業は森林組合などに委託することになるだろうが、林業従事者数は全国で5万人を割り、減少傾向が続く。

     森林環境税の税収は年間620億円に上る。森林管理以外の使途について、国民的な議論が欠かせない。多くの府県が森林整備などのための地方税を独自に課しており、役割分担を明確にする必要もある。

    川と海も一体で再生を

     こうした点を踏まえれば、森から発した川が海へと続くように、流域の自治体が連携して新税を有効活用し、森林再生に取り組むべきだ。

     相互交流により、森林の重要性の理解が深まるし、山間部の自治体の人員不足を補う効果も期待できる。

     宮城県気仙沼市でカキの養殖業を営む畠山重篤さんらは、気仙沼湾に注ぐ川の上流部でミズナラやブナなどの植樹を続けている。鉄分を含む森林土壌の養分が川から海に運ばれ、植物プランクトンを増やし豊かな漁場を育むと考えられている。

     「森は海の恋人」が合言葉の取り組みは今年で30周年。東日本大震災で気仙沼の養殖業は大きな被害を受けたが、森の力のおかげもあり、よみがえることができたという。

     さまざまな公益的機能を持つ日本の森林は、国民の共有財産だ。豊かな森の恵みを守るには、その多面的な価値を再認識し、木材としての利用にばかり偏らずに保全、活用を図っていかなければならない。

     今日はみどりの日。50年、100年先を見すえた森林政策が、今こそ求められている。

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