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特集

フィンランドの似顔絵屋さん 幸せのキャッチボール

お客さんと笑顔で話をするマッティ・ピックヤムサさん=京都市中京区河原町三条上ルのアンジェ河原町店で、岡橋賞子撮影

 温かな筆遣いが魅力のフィンランドの人気イラストレーター、マッティ・ピックヤムサさん(41)が最近始めた「似顔絵屋さん」が、日本でも徐々にファンを増やしている。マッティさんにとって、似顔絵を描く意味とは。【岡橋賞子】

     「わあ、本当にそっくり! きっと喜んでもらえます」。大阪府茨木市の服飾デザイナーの女性(54)は受け取った絵に、満面の笑みを見せた。姉から教えてもらったマッティさんの絵の「日本人にない色彩感覚」が気に入り、86歳の父、84歳の母への贈り物に、自分を入れた3人の絵を依頼したのだ。

    マッティ・ピックヤムサさんの絵本など作品の一部=岡橋賞子撮影

     マッティさんは、ヘルシンキ芸術デザイン大学(現在のアアルト大学)在学中に、イラストレーターとしてのキャリアをスタートした。美しい色と大胆な構図で大人をも魅了する絵本。国内最大発行部数の日刊紙、ヘルシンギン・サノマットの日曜版コラムも20年近く担当しており、ここでは時事的なテーマを、ピリッとした一枚で楽しませてくれる。

     本の表紙や飲料水のパッケージも手がけ、さらにテキスタイルデザイナーとして、洋服や日用品が商品化される活躍ぶり。ここに似顔絵の仕事が加わったのは、2014年、名古屋の北欧関連イベントで開いた「似顔絵屋さん」がきっかけだった。

    完成間近な自分の似顔顔に興味津々の女の子=京都市中京区河原町三条上ルのアンジェ河原町店で、岡橋賞子撮影

     3週間で約450人を描いた経験を「激しいトレーニングのようだったよ」と振り返る。しかし、それまで仕事といえば、部屋にこもって孤独に絵を描く作業だった。「話しながら、人を描くのはとても楽しかった」。そして、帰国後も定期的に似顔絵を描くようになった。

     今年2月初旬、京都市中京区の雑貨店、アンジェ河原町店で開いた似顔絵屋さん。にわか仕立ての“アトリエ”の机には数十本のアクリル絵の具が並んでいる。「おねがいします」。マッティさんは日本語であいさつすると、まず依頼者の顔をタブレット端末で撮影する。「これを手元に置いておけば、お客さんにずっとこちらを向かせたり、緊張させたりしないで済むからね」。優しさが垣間見える。

    自然で優しいタッチの似顔絵=京都市中京区河原町三条上ルのアンジェ河原町店で、岡橋賞子撮影

     太めの筆でささっと背景を塗って乾かすと、注意深く顔の輪郭を、次に細い筆で髪の毛を描き出し、そして、最も大切な目に気持ちを集中して完成させる。描く対象が1人なら、わずか30分だ。「大切なのはどれだけ時間をかけるかではなく、特徴をしっかりつかむこと」と言い切る。

     京都市左京区の看護師、佐藤真理さん(36)は、翌日5歳の誕生日を迎える長女優安(ゆあ)ちゃんと参加した。単身赴任中の夫は、一緒に祝うことができない。「写真は気恥ずかしいけど、似顔絵なら部屋に飾ってもすてき」と3人を描いてもらった。また、茨木市の夫婦(ともに39歳)は、「子供が小さい間の記念に」と7歳の長男と足を運んだ。

    作品をお客さんに渡した後は、記念撮影=京都市中京区河原町三条上ルのアンジェ河原町店で、岡橋賞子撮影

     特徴を強調するのではなく、自然な優しいタッチ。マッティさんの数年来のファンという神戸市灘区の大学職員、田中志瑞子(しずこ)さん(36)は、昨年のイベントで、死んだ愛犬と散歩する自分を描いてもらった。「毎朝目覚めてその絵が目に入ると、もう犬はいないけれど、とても幸せな気持ちになれる」と絵を大切にしている。

     似顔絵屋さんでは、しばしばドラマが生まれる。最もマッティさんの心に残っているのは、ヘルシンキで、病気で余命が長くないと知って自分を描いてもらいに来た人だという。また、屋外のイベントにたまたま通りかかった元美術教師の女性は、ずいぶん何かに悩んでいた様子だったが、美術の話で意気投合。半日ほども話をしているうちに、明るくなって帰って行った。

    日本で発売された作品「めとめがあったら」と「まねっこおやこ」(いずれも、文・おくむらけんいち、絵・マッティ・ピックヤムサ、ブロンズ新社)=岡橋賞子撮影

     多くの人が、特別な一枚に期待を寄せてやって来る。「どのお客さんもとても大切だから、毎回全力を尽くす。絵が描き上がりお客さんが喜んでくれる姿を見ると、ぼく自身も幸せでいっぱいになる」。お客さんとのコミュニケーションから生まれる似顔絵。それまでのキャリアで感じていたのとは違った新たな喜びを、マッティさんは見いだしている。


     ■人物略歴

    マッティ・ピックヤムサさん

    フィンランド

     1976年、フィンランド・オウル市出身。トーベ・ヤンソンもムーミン作品で受賞した、フィンランドの優れた児童書のイラストレーターをたたえる「ルドルフ・コイヴ賞」の2013年受賞者。ほかにも「フィンランド国家賞」(15年)など多くの賞に輝いている。骨とう品収集が趣味で、日本文化にも関心が深い。

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