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Interview

伊藤恵 いよいよベートーベンへ 《熱情》と《ワルトシュタイン》録音

=林喜代種撮影

 ピアニストの伊藤恵がベートーベンのピアノソナタ《熱情》と《ワルトシュタイン》をCDに録音した。これまで伊藤は1人ずつの作曲家に長年をかけて取り組んできた。デビューから20年をかけシューマンのピアノ作品を網羅した「シューマニアーナ」シリーズ全13枚のCDを刊行、続いてシューベルトに約10年かけてCD6枚になる「シューベルト ピアノ作品集」をリリースしてきた。そしていよいよベートーベン。しかしそれは、単に作曲家を時代順にさかのぼってきたのではない。伊藤は「シューマンに取り組んでいる間、その曲の奥にある、シューマンが憧れ続けていたシューベルトを見ながら弾いていた」と言う。しかし「シューベルトを弾くことを自分に封印していた。シューベルトのすさまじい孤独に、簡単に触れてはいけないと思ったからです」。

        ■  ■

     その延長線上に伊藤がベートーベンに取り組む流れが見えてくる。

     「ベートーベンに憧れ、尊敬していたシューベルトは、しかし、ベートーベンが書き得なかった、滅びてゆくもの、去っていくこと、悲しみ、弱い孤独な心、弱さを音楽に書いた。現代に生まれた私たちがそれを知ってベートーベンに取り組めるのはありがたい」

     封印を解いてシューベルトを弾くことによって、伊藤はベートーベンに新たな視点を持ち得たのだろう。今回、ベートーベンの楽譜を忠実に見直すなかで、とりわけベートーベンが楽譜に書き込んだ曲想標語の「ドルチェ(やわらかに。甘く)に心ひかれた」と言う。

     「ベートーベンには素晴らしいさまざまな演奏があって、もう私にやることはない。一体、私が何を問えるのか?と思ったのですが、ベートーベンがドルチェと書き込んでいるところを改めて見いだして弾くと、ベートーベンの神に通じるような優しさ、表面的に甘いことを言わずに音楽の深いところで見せてくれる優しさに感動しました。愛らしい曲ならともかく、生きるとは何か、と厳しく追究している《熱情》にドルチェと書き込んでいるのです」

        ■  ■

     伊藤の《熱情》の録音はゆったりとして、深い。第1楽章の第2主題のドルチェは、大きく豊かに歌われている。

     「ベートーベンの優しさというところから、私はなんとか長い道のりを、迷いながら、さまよってでもたどって、彼の音楽の本質を一瞬でも見ることができれば、と思います。私が生きているうちには無理かもしれませんが」

     CDは「ベートーベン ピアノ作品集1」(フォンテック)として9日に発売される。【梅津時比古】

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