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雨のち晴れ

工場全焼、地域に支えられ 浜野製作所社長・浜野慶一さん

東京スカイツリーの開業に合わせ、浜野製作所や早大、墨田区などの産学連携で開発された観光用電気自動車「HOKUSAI」を囲む浜野さん(手前左)と金岡さん(同右)=東京都墨田区八広の浜野製作所で2012年4月撮影(同社提供)
浜野慶一さん

産学連携、新分野に挑戦

 今では社員50人、工場も5カ所ある金型製造・板金加工の「浜野製作所」(東京都墨田区)ですが、元々は家族経営の小さな町工場でした。創業者の父親の急逝で1993年に継ぎましたが、仕事は海外に流れる一方。そこで海外ではまねできない高い技術を生かした“多品種少量生産”へとシフトしようと新工場建設を計画した直後に転機が訪れました。

     2000年6月、近所の火事のもらい火で本社兼工場が全焼。私は消火活動のさなかに不動産屋に飛び込みました。納期の迫った仕事があり、代わりの工場を探さねばならなかったのです。男性店主があちこち電話し2時間後に墨田区内で「うちに今は使っていない工場があるよ」という女性を見つけてくれました。そこに行くと出迎えてくれた女性が突然「ご飯は食べたか」と。「うちも10年前に火事になった。(工場再建で苦労した)旦那はその後体調を崩して亡くなった。こんな時こそ食べなさい」とおにぎり2個とみそ汁を差し出してくれ、工場も格安で貸してくれました。2人とも初対面。納期も守れ、職人の町の人情が身に染みました。

     ただ、その後の経営は厳しく、たった一人の従業員に給料を払えず転職を勧めたほど。「社長と一緒に仕事がしたい」と言って残ったのが専務の金岡裕之(51)です。本当に苦しかった01年に東京都や墨田区の中小企業支援に基づく融資を受けて設備を増強し、知人の紹介でメーカー下請け4社に営業攻勢をかけました。知人の顔を立てて最初は会ってくれましたが、次からは面会を断られました。

     こっちも必死です。朝と夜に会社の前で担当者に頭を下げ続けました。ある日「急ぎで悪いけど」と路上で声をかけられ、図面を渡されて「こんなの作れないか」と。金属部品でしたが数量が少なく既存の取引先に断られたのでしょう。「これはチャンスだ」と納期の半分で納品すると、次の注文も入り、また早く仕上げる。それで信用を得て1年後に月200万円の仕事を受注。「浜野は無理をきいてくれる」と評判が広まったのか、仕事が入るようになりました。

     火災が、地域で支え合う重要性に気付かせてくれました。今では、産学連携などで新たな分野に挑戦しています。深海探査艇「江戸っ子1号」や電気自動車「HOKUSAI」の開発参加などがそうです。また社内にベンチャー企業の創業支援施設を併設し、開発・試作などをサポートしていますが、これは町工場が下請け体質から脱するための実験でもあります。技術を武器にものづくりの上流で仕事をする。それによって町工場が輝き、若い人が参入してくるような未来があると思うのです。<聞き手・加藤明子>


     ■人物略歴

    はまの・けいいち

     東海大卒業後、東京都板橋区の精密板金加工メーカー入社。浜野製作所で自動車部品や医療機器などの設計・加工を手がけ、2003年から早大と産学連携活動を開始。同社は今年1月に「ものづくり日本大賞」経済産業大臣賞を受賞。東京都出身。55歳。

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