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寄稿

原色の声 響く町で インドネシアの国際作家フェスから=和合亮一(詩人)

 インドネシア、スラウェシ島南部の都市マカッサルへ。ここで5月2日から国際作家フェスティバルが開かれている。2011年から始まった。当時は日本で起きた東日本大震災が大きな話題となったとお伺いした。インドネシアも04年のスマトラ島沖地震で大きな津波を経験している。

     気温は30度を軽く超える。空港から車にて移動しながら、道路のにぎわいに目を奪われる。車やトラックはもとよりバイクにまたがる人々が行ったり来たり。2人乗りや3人、それ以上乗っている姿も時折に見かける。街に入る。歩道を行き交うたくさんの人々。原色が目立つ町並み。南の街路樹、露店、あふれる人影。元気が湧いてくる。

      ■  ■

     メイン会場は観光の名所であるロッテルダム要塞(ようさい)。この場所を中心に、4日間で81ものトークセッションや朗読会が催されることになる。2日目の朝に到着。その日の夕方5時、中庭の芝生で連日開催されているオープンマイクに飛び入りで参加した。日本語の朗読であったが、驚くほどの拍手や歓声が初めからあり、こちらが驚いてしまった。これまでアジアやヨーロッパの各国で朗読をし、それぞれにリアクションの力を感じたが、どの国とも似ていない生の感じが草の上の客席にあった。翌日の夕刻もまた飛び入り参加をした。その後、夜更けのメイン会場でも朗読させていただいた。客席の熱気と声とが回を追うごとに増すように感じられる。とくに若者たちが多く集まってきた。

     イベント創始者の一人である日本人、松井和久さんは、イスラム教徒がとても多く、コーランの詠唱を日常的に行っていることが、街の人々に言葉を唱えることへの親しみをもたらしているのではないか、と教えてくれた。英雄をたたえる詩などを学校で声に出す機会が数多くあり、政治への不満などを詩に書いて朗読し、拍手や歓声をあげながら人々がそれを聞くということが広場で行われているそうである。異なるものでも新しいものでも、あげられた声を否定せずに受け止めようとする力をステージの上で直感した。その波動が、声を発する側にそのまま返ってくる。原初的な対話の姿が各会場にあった。

      ■  ■

     国立ハサヌディン大学にて、震災と詩にまつわる講演もさせていただいた。リリ教授が初めにスピーチをしてくださった。「壊れた橋や建物は必ず元に戻せる。しかし心は直せない」。だからこそ、言葉が橋を架けることが必要なのだ、と。教室に集まってくれた学生たちの多くは日本語を学んでいる。リリ教授はこう続けた。「日本に行ったら単なる旅行者では終わらないこと」「日本語を学ぼうとするだけではなく、言葉とそこに暮らしている人を学ぶこと」。熱心な学生たちの眼(め)に、この国と彼らがこれから訪れる日本の未来を想(おも)った。

     夕方になると、アザーン(コーランの詠唱)が町中に響き渡る。松井さんが、イベントの合間を縫うようにして会場近くの浜辺へと連れて行ってくださった。途中で残念ながら陽(ひ)は沈んでしまった。詠唱の声が残る波打ち際で、まだかすかに赤い空を眺めながら、大魚を逃がしたかのように松井さんは悔しがった。しかし、急ぐ道すがら一瞬だけ私は見た。

     原色だった。不在の空に赤みと唱える声だけが残っている。その響きを味わいながら、見えないから美しいのだ、と何故(なぜ)だかうなずいていた。この国が、祈りの念を何よりも大事にして、光と闇を受け止めようとする心をいつも育てているのだ、と火照った肌で感じた。(わごう・りょういち)

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