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どうすれば安全安心

がん細胞壊すウイルス療法 免疫治療併用で攻撃力強化

二つの治療法を組み合わせたがん治療

 がん細胞がウイルスに弱いという性質を利用し、がん細胞を死滅させるウイルス療法と呼ばれる治療の研究が進められている。このウイルス療法と既存の抗がん剤を組み合わせた新たな方法での治験が国内で始まった。どのような治療法、仕組みなのだろうか。【庄司哲也】

    食道がんなどで治験中/抗原提示の仕組み利用/課題残る体深部の治療

     がん細胞をウイルスに感染させてがん細胞を破壊、死滅させる薬に「腫瘍溶解ウイルス製剤」がある。この薬でがん細胞を破壊する過程で、がん細胞を排除する仕組みを持つ「免疫細胞」に“攻撃目標”が示される仕組みがあることがわかってきた。そう解説するのは、国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)の消化管内科医長、小島隆嗣さんだ。同病院は今年3月から、腫瘍溶解ウイルス製剤を使うウイルス療法と免疫治療を組み合わせた治験を始めている。

     治験で使っているのは、腫瘍溶解ウイルス製剤のテロメライシン(OBP-301)だ。風邪ウイルスの一種、5型アデノウイルスを遺伝子操作し開発された。改変されたウイルスは、がん細胞に感染すると細胞内で猛烈に増殖し、内側からがん細胞を破壊する。一方で、正常細胞ではほとんど増殖しない。

     これに国内で2016年9月に承認された「免疫チェックポイント阻害剤」と呼ばれる抗がん剤のペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)を組み合わせる。この薬は、がん細胞が作り出すPD-L1という物質によって、免疫細胞(T細胞)の攻撃力が弱体化されるのを防ぎ、がんに対する攻撃力を強化させる。14年9月に世界に先駆けて日本で発売された「ニボルマブ(商品名オプジーボ)」と同種の抗がん剤だ。皮膚がんの一種の悪性黒色腫(メラノーマ)や非小細胞肺がんなどの治療に使われている。

     小島さんによると、治験の対象は進行または転移した食道がんなどの固形がんで、従来の治療法では効果が十分でなかったり、治療法がなかったりする患者。テロメライシンを2週間ごとにがんに直接、注入する。さらに最初の注入から8日後にペムブロリズマブを点滴し、3週間ごとに繰り返し投与していく。「現在は安全性や薬の副作用にどの程度耐えられるかの忍容性を評価し、どのぐらいの容量を使えば良いのかを決める段階の治験です。さらにどのような有効性があるのかも探っていきます」

     ウイルスは人間の体にとって異物のため、テロメライシンでウイルスに感染すると、排除しようとして体の免疫の機能が高まる。その免疫機能を使い、免疫チェックポイント阻害剤で弱体化を防いだT細胞が活発にがんを攻撃する。

     さらに、T細胞など免疫細胞はがん細胞を異物とみなして攻撃する。だが、免疫細胞にとって、自分の体から生まれたがん細胞は異物と認識しにくい。だが、テロメライシンで、がん細胞を破壊する際、免疫細胞にがん細胞であることを伝えるがん抗原という目印を放出する。ターゲットが示されることで免疫細胞ががん細胞をより一層攻撃しやすくなるという仕組みだ。小島さんは「腫瘍溶解ウイルス製剤と免疫チェックポイント阻害剤を併用することで、さらなる効果を期待しています」と説明する。

     国内での治験は岡山大病院でも行われ、食道がんを対象に放射線との併用で実施している。食道がんでは、がんが食道に食べ物が通るのを妨げ、物が食べられないというつらい症状が出る場合がある。テロメライシンは手術をせずにそうした患者の治療に道を開く。

     「海外では食道がん以外の治験も進めています」と話すのは、テロメライシンの開発を進める創薬ベンチャー「オンコリスバイオファーマ」(本社・東京都)の社長、浦田泰生さん。台湾と韓国では肝細胞がんを対象にテロメライシンの単剤で、また、米国では悪性黒色腫に対して単剤で行われているという。

     がんに罹患(りかん)した人が、はしかに感染したことによってがんが完全に消失する例があるなど、がんがウイルスに弱いことは約1世紀前から知られていた。ただ、大量のウイルスを投与すると、臓器の機能が脅かされてしまう。そのため、遺伝子改変により、正常細胞には影響を与えないようにウイルスの開発が進められてきた。

     大手製薬企業で新薬開発に取り組んできた浦田さんは「ウイルス療法はウイルスによってがんを破壊する働きだけが着目されてきました。ですが、8年ほど前から、がん抗原を提示するという新たな仕組みが徐々に明らかになり、この役割が注目されるようになってきました。さらに効果を高める可能性がある免疫チェックポイント阻害剤の登場で、ウイルス治療は大きな転換点を迎えたのではないでしょうか」と話す。

     テロメライシンにも少ないとはいえ副作用はあるという。風邪ウイルスを改変しているため、発熱などの風邪に似た症状だ。従来の抗がん剤のように脱毛や吐き気などの副作用はないとみられている。また、固形がんに直接注入しなければならないため、今のところ、対象となるがんは悪性黒色腫や食道がんなど腫瘍内に直接注入できるがんに限られる。

     一方で、課題を克服する可能性に言及するのは小島さんだ。「がんが体内の深い部分にあり、注入が難しくても皮膚やリンパ節などに転移があれば、そこに直接注入する方法が考えられます。ウイルスが注入部分のがんを破壊し、免疫機能が高まれば、免疫チェックポイント阻害剤を併用することで深い部分にあるがんも免疫細胞が攻撃することが期待されます」

     国内ではまだ治験段階だが、米国では、世界に先駆けてヘルペスウイルスを遺伝子改変した腫瘍溶解ウイルス製剤がすでに15年10月に承認されている。小島さんは「がんのウイルス療法は、海外では承認薬も出ています。決して実用化が遠い、未来の治療ではないのです」と話している。

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