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規制改革推進会議

放送法4条の撤廃 復活を恐れる民放

首相官邸作成の「改革ロードマップ」概要
規制改革推進会議で発言する安倍晋三首相(左から2人目)=首相官邸で2018年4月16日、川田雅浩撮影

 政府の放送制度「改革」原案が今春、放送業界を動揺させた。「政治的公平性」を定めた放送法4条の撤廃が盛り込まれたほか、放送と通信の融合で「NHKを除く放送は不要に」と記されたからだ。結局、政府の議論の受け皿である「規制改革推進会議」の4月の論点整理に4条撤廃は含まれず、6月上旬とされる答申でも入る可能性は低くなったと見られる。ただ将来的に復活する恐れは残り、民放は警戒を続けている。【犬飼直幸、青島顕】

    電波からネットへ、転換目指す工程表

     「改革原案」は2種類のペーパーで、3月中旬から東京・永田町や霞が関に出回った。「放送事業の大胆な見直しに向けた改革方針」と題されたA4判3枚と、その具体的な工程表となる「通信・放送の改革ロードマップ」同1枚だ。

     「大胆な見直し方針」では、放送法4条などの規制を撤廃し、インターネット通信との制度一本化を掲げた。地上波のテレビ局は、番組を制作するソフト事業と放送設備を管理するハード事業の双方を営んでいるが、ハードとソフトの分離の徹底なども盛り込んだ。いずれもネット事業者の番組制作への参入を容易にする狙いがあり、「放送に過度に依存しないコンテンツ流通網を整備」すると書いた。

     「改革ロードマップ」は、より「過激な内容」(民放関係者)だ。改革の工程を3段階に分け、放送と通信の融合が進めば「NHKを除く放送は基本的に不要に」なるとうたう。意味するところは不明だが、民放の弱体化を狙った「民放解体論だ」(在京キー局幹部)など、民放の反発を決定的にした。4条以外の放送法の規制の撤廃対象も具体的に明記。番組内容に関しては、番組基準の策定▽番組審議機関の設置▽娯楽・教養・報道といった番組分野の調和--などを求める各条文の撤廃を列挙した。

     経営関連でも、ハード・ソフト分離以外に、放送の多様性確保のために、一つの資本が多数の放送局を所有することを禁止した「マスメディア集中排除原則」の撤廃を入れた。放送対象地域で「放送があまねく受信できるように努める」義務や、放送局への外資の出資規制の廃止も盛り込んだ。

     NHK以外の民放から放送特有の法規制の大部分をなくす内容で、これらの改革を実現する法案を早ければ今秋の臨時国会に提出し、2020年以降に施行するとした。その結果「電波からネットへの転換が進展」するとも記している。

    培った公共性より産業振興の色濃く

     二つのペーパーはいずれも、安倍晋三首相の意を体して首相周辺が水面下で準備したとされるが、公式には作成を認めていない。複数のメディア専門家や放送・通信を所管する総務省などによると、「民放が培ってきた公共性や、民主主義社会の言論で果たす役割への理解が不足し、経済産業省的な産業振興の思惑が前面に出た内容」だ。インターネット動画配信業界の著しい成長に対し、若者らの「テレビ離れ」で放送業界の低迷が進むことを見越して、規制のないネットの世界に放送を吸収していく発想が目立つ。

     放送と通信の融合は06年、竹中平蔵総務相(当時)の私的諮問機関「通信・放送の在り方に関する懇談会」(竹中懇)などでも議論され、この時もハード・ソフトの分離が議題に上がった。この点は今回の改革原案と似通っている。

     一方、当時は放送法4条の撤廃への言及はなく、今回は新たな論点の提示だと言える。当時の議論を知る人たちからは「放送事業への新規参入を促し、既存の民放潰しが背景にある点は当時も今も変わらない」という声が上がる。

     民放各局は、多様な放送の土台となってきたNHKとの「二元体制」を崩すと強く反発。放送法4条など内容規制の撤廃について「各社が番組の質を保ってきた共通基盤が失われ、視聴率狙いでフェイク(偽)ニュースや、偏向・低俗番組が氾濫する」(在京キー局幹部)と反対した。

     与党からも「やり過ぎだ」(自民党幹部)との反対の声が上がり、4月16日の規制改革推進会議は、4条撤廃など具体的方針を一切示さず、「通信・放送の枠を超えたビジネスモデルの在り方」など大まかな課題の確認にとどまった。

     6月上旬とみられる同会議の答申内容について、民放は「改革の基本的方向性が変わったか疑念がある」(日本テレビの大久保好男社長)として注視している。批判が集中した4条撤廃は盛り込むのを断念するとの見方が民放や政府内で強まる中、竹中懇以来、10年以上くすぶり続けるハード・ソフト分離の徹底の行方が注目されている。同会議は、作業部会で関係省庁や有識者から各論のヒアリングを続けており、どう収束させていくかは不透明だ。

    メディアの反発受け 首相の姿勢、後退か

     民放や政府の複数の関係者によると、今回の改革の「震源」は首相で、放送法4条撤廃などについて「本気で考えていた」という。首相が改革に熱心になった背景には、森友、加計学園問題を巡る一部民放の批判的な報道への不満に加え、ネットメディアへの親近感もあって、ネット通信業者の放送への参入促進を狙ったとされる。

     首相の本気度を示す象徴的な場面が、3月9日夜に東京都内であった日本テレビの大久保社長との会食だ。首相は、ここで4条撤廃などを示唆。しかし、大久保社長は激しく反発して首相と言い合いとなり、最後に「これから検討すると言うならまだしも、首相が結論を言ったらおしまいだ」と強く念押ししたという。

     その後、3月中旬から改革原案が流出するようになり、憲法改正などで首相に近い立場の新聞などからも反対する報道が相次いだ。

     この頃、森友学園に関する財務省の決裁文書改ざん問題などで内閣支持率が急落。9月に首相が3選を狙う自民党総裁選などを見据え、複数の首相側近議員からは「これ以上、メディアの反発を受けるのは得策ではない」との懸念が首相に伝えられた。

     4月2日には、首相は東京都内でのマスコミ各社幹部との会食で、日本テレビを擁する読売新聞グループの本社主筆で、親しい間柄の渡辺恒雄氏から放送制度改革について問い詰められ、関与を否定しなかったという。自民党ベテラン議員は「首相にとって、自分に近いメディアや与党も含め、ここまで反発を受けることは誤算だったのではないか」と指摘する。

     こうした反対論の高まりの中で、首相や改革原案を作成したとされる首相周辺は、4条撤廃などについて弱含みになったとされ、同月16日の規制改革推進会議の論点整理でも盛り込まれなかった。


     ■ことば

    ハード・ソフト分離

     地上波のテレビ局は従来、放送設備を管理するハード部門と、番組制作をするソフト部門を一体として免許を受け、放送をしてきた。2010年の放送法改正で、多額の投資が必要な放送設備を持たない事業者でも番組制作に参入しやすくするため、「分離」も選択可能になった。しかし、災害報道などでハード・ソフト一体型でないと緊急時の連携で混乱が生じる恐れもあり、現状は全ての局が一体型を選択している。

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