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iPS細胞(人工多能性幹細胞)を利用した心臓病治療の臨床研究を厚生労働省の部会が承認した。
国内ではこれまでに目の病気である加齢黄斑変性の患者にiPS細胞から作った網膜細胞を移植する臨床研究が実施されているが、心臓病への応用は世界初となる。
命にかかわる疾患であり、うまくいけばiPS細胞による本格的な再生医療を後押しする力になるだろう。一方で、加齢黄斑変性のケースよりリスクは高いと考えられる。
いずれにしても、これは安全性確認を主目的とする臨床研究である。過剰に期待することなく慎重に進め、必要なデータを得ることが大事だ。研究に参加する患者への説明も、リスクを含めて十分に尽くさなくてはならない。
虚血性心筋症は心臓の血管が詰まり重症の心不全を起こす疾患だ。今回の臨床研究は大阪大が行うもので、京都大で備蓄しているiPS細胞から心筋を作り、これをシート状にして患者の心臓に張り付ける。それが心臓の働きを助け、分泌する物質で心臓の血管の再生を促すのがねらいだ。
加齢黄斑変性との大きな違いは、約1億個という大量のiPS由来細胞を移植する点だ。ここにうまく心筋に変化していないiPS細胞が残っているとがん化の恐れがある。
心筋細胞はがん化しにくく、仮に腫瘍ができても患者自身の免疫の働きで排除されると研究チームは期待するが、油断のない観察と、万が一の場合の対処は怠らないようにしなくてはならない。
患者自身の足から採った筋肉細胞を使う心筋シートはすでに保険診療の対象となっている。この治療の経験に基づく課題も十分生かしたい。
再生医療への応用が期待される細胞には、iPSとは別に受精卵から作るES細胞(胚性幹細胞)がある。それぞれの長所短所を見極めることも重要だ。
iPS細胞に期待されるのは細胞移植による再生医療だけではない。むしろ、新薬候補の安全性試験や、患者由来のiPS細胞を使った創薬研究の方が、より早く、より多くの患者の利益につながる可能性がある。バランスのとれた研究体制にも気を配りたい。