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角田光代・評 『できそこないの世界でおれたちは』=桜井鈴茂・著

 (双葉社・1512円)

「勝ち負け」の代わりの価値観を得る

 語り手である四十代半ばのシロウは、十数年前親しかった女友だちと再会し、それをきっかけにして、当時つるんでいた仲間たちと、また密につきあいはじめる。仲間たちの状況はだいぶ変わっている。全国的に有名になったバンドのドラマーもいる、離婚を機に自分の名義となったバーを営む女性もいる。三十代のときは小説を書こうとしていたシロウは、現在フリーランスのコピーライターで、離婚した妻に、十一歳の息子の養育費を払っている。とはいえ彼らは、世間一般的な四十代、五十代からすれば、やけに軽やかだ。それぞれに悩みはあれど、背負っているものが圧倒的に少ない。だから、再会した彼らが三十代のころと似たような日々を過ごしはじめても不自然ではなく、若さへの固執とも思わないし、中年のあがきとも思わない。

 彼らの軽やかさを可能にしているのは、彼らが三十代のころすでに「日本社会が暗に奨励するライフスタイルから意識的にせよ無意識的にせよ逃れ出て」きたからだ。その脱出には成功した。彼らは自由を手にした。彼らが三十代を過ごした二〇〇〇年代、日本の社会は人生を勝ち負けで表現していた。そこから逃げ出した彼らは、人生に勝敗を持ちこまずにすんだ。さらには日本社会が奨励する典型的な加齢をも免れた。

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