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濃い味、うす味、街のあじ。

うどん、かつめし 歴史の調和

 この連載で挿絵を描いていただいている奈路さんが、明治期のニッケ(日本毛織)の洋館社宅を見ようと兵庫・加古川の「まち歩き」をした際に、初めてこの店に行った。外観を見て即座に「これは入らなあかん」と思ったとのことだ。

     今回も新しく整備されたJR加古川駅を出発点に街を散策したのだが、「加古川1番街じけまち商店街」を歩いて、県道越しにこの「丸万本店」が見えてきたときの存在感は確かに絶大だ。角地にある古い建物。木の引き戸の入り口はちょっと奥まっていて、アプローチに石が打たれている。誘われるように店の前に立つと、真ん中に「○に万」が染め抜かれただけの青い暖簾(のれん)。そこに「創業明治三十年」とある。明治30年といえば1897年。121年か、これはすごいな。

     この店のある加古川町寺家町(じけまち)は、西国街道の宿場があったところだ。その西国街道の上にアーケードがかかっている。商店街は駅から離れるにつれてシャッターを下ろした店舗が目立つが、昔ながらの呉服店や喫茶店があり、文房具屋には「将棋盤、トランプ、花札、百人一首カルタ、麻雀(マージャン)」と短冊が上がっている。1970年代には100を超える店舗が商いをしていたそうだ。

     年末のせいもん払い(大売り出し)の時期には、商店街は農閑期を迎えた近隣の加東や加西からの客で大いににぎわったという。加古川に買い物に訪れた客は「丸万でうどんを食べて、赤穂(店の名前)の回転焼きを買(こ)うて帰る」。それがこの街場でのパターンのひとつだったそうだ。

     その丸万は現在、四代目の木田光之さん(70)ご夫婦と息子さんが取り仕切っている。「小学生の頃は年末になると、裏の座敷から縁側まで人がいっぱいで、家に入るのに難儀しました」という店舗は、67年に県道拡張の際に削り取られ改築している。半世紀前の昭和がここにある。

     今、加古川の名物といえば断然「かつめし」だ。とんかつをのせたごはんにデミグラスソースをかけたもので、この店も改築に合わせるようにメニューに加えた。前にプチ観光で加古川に訪れた奈路さんは、正しくそれを注文したわけだ。

     「うちでは50年やってますが、平成に入ってテレビに紹介されてから、『ご当地グルメ』として加古川の観光協会が売りにしたんです」と木田さん。丸万がかつめしを出し始めた頃は数軒だったが、ここ10年で100軒以上の飲食店がこの新しい加古川名物を出す。

     さて、いにしえからの丸万名物のうどん。すべて自家製だ。この店本来の大阪流うどんは、やはりダシを重視する。ウルメ、サバ、宗田ガツオ、平アジそして道南産昆布からひいたダシは、一口すすると「おっ」と思ううまさだが、ずっと井戸水を使い続けていることも大きい(このあたりは水が良いことが知られている)。

     麺は手ごねの生地を一晩寝かせて、機械で自家製麺する。動力製麺機は昔ながらのもので、消耗品である切り刃は、地元の機械工場の職人に頼んで作ってもらっている。

     85年までは客を待たさないように、あらかじめ朝にゆでた麺をせいろに積んで注文の都度出していた。が、工学部出身の「技術屋」の木田さんは「やっぱり麺は生。素うどんがうまくないとあかん」と改良、10分程度でゆで上がる麺にした。この生麺が好評で、ちょうど讃岐うどんが興隆してきた頃にかかわらず、売り上げがぐんと伸びたという。

     「昔は本陣もあった西国街道の大きな宿場町。そこに初代が明治23年に屋台を出した。30年に店になって、32年からは名門ニッケが加古川にできたおかげ。うどん・そば・丼で、戦後になってかつめし。ぶっちゃけた話、うちも今はかつめしに助けてもうてるとこあります」と笑う木田さん。

     なかなか大阪や神戸にはない、「加古川はいい街やなあ」と思わせる老舗四代目ならではの話である。<文・江弘毅 題字/イラスト・奈路道程>


    丸万本店

     天井が高い店内は、八つのテーブル席と小上がりの座敷が2卓。ゆったりしていて音がよく響き、昭和の映画の撮影セットのような空気感がある。まことに播州らしい「あなごうどん」は、地元の名店「下村」の焼きあなごを使っている。「素うどんと口銭、変わらん」770円で、よそのとは全然違ううまさ。きつねうどんを当初から「しのだ」と呼ぶところも渋い。兵庫県加古川市加古川町寺家町350。電話079・422・2020。11~19時。木曜休。


     ■人物略歴

    こう・ひろき

     編集集団140Bの編集責任者。神戸松蔭女子学院大教授。最新刊「いっとかなあかん神戸」(140B)が大好評で2刷。


     ■人物略歴

    なろ・みちのり

     イラストレーター。雑誌挿絵や阪急三番街などの宣伝画を手がける。

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