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サンティアゴ巡礼道の風景

世界遺産の「サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼道」。目的地のサンティアゴ大聖堂(スペイン・ガリシア州)には年間20万人以上の巡礼者が世界から集まり、徒歩や自転車で聖地を目指します。日本でも、四国遍路や熊野古道のように歩いてみたい「巡礼道」として関心が高まっています。有名な「フランス人の道」以外にも複数ルートがある巡礼道のうち、「ル・ピュイの道」を歩いたライターの佐藤徹也氏が、どのように歩くのかの初歩的ガイドから説き起こし、どんな人たちが、何を考えながら歩いているのかを、美しい写真とともに描きます。

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サンティアゴ巡礼道の風景

スペインの聖地へ フランスから歩いてみた

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丘陵地帯に広がる牧草地のなかの道を歩く
丘陵地帯に広がる牧草地のなかの道を歩く

 スペイン北西部、ガリシア地方に位置する宗教都市・サンティアゴ・デ・コンポステーラ。この街はバチカンやエルサレムと並んでキリスト教の三大聖地のひとつに数えられており、今日でも世界中からの参拝客が絶えない。

 もちろん、航空機や車やバスを利用しての参拝客が多いのだが、なかにはあえて徒歩でこの聖地を目指す巡礼者たちもいて、そんな彼らが延々と歩いてくるのが、サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼道だ。

サンティアゴ・デ・コンポステーラへの道
サンティアゴ・デ・コンポステーラへの道

 そもそもこの地が聖地になったいわれは、キリストの12人の使徒のうち、最初に殉教した聖ヤコブの遺骸が祭られていることによる。この聖ヤコブがスペイン語では「サンティアゴ」という発音になり、つまりは街の名前も聖ヤコブにちなんでいる。

 サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼道は、1本のみ存在するわけではない。ヨーロッパ各地からこの聖地を目指して巡礼者たちが辿った道が、やがては巡礼道となり、それが1000年におよぶ長い歴史のなかで生まれたり消えたりして現在に至っている。

 今日多くの人が歩いている巡礼道だけでも10本以上を数えるが、そのなかでも一番ポピュラーなのが、スペインとの国境に近いフランスの街、サン・ジャン・ピエ・ド・ポーから、ピレネー山脈を越えて聖地を目指す「フランス人の道」だ。ピレネー越えのダイナミックな風景のなかを歩くことに加えて巡礼宿なども充実している。映画「サン・ジャックへの道」や「星の旅人たち」などでも紹介され、それもこのルートの人気が高まっていることの一因になっているようだ。

「ポルトガル人の道」はブドウ棚とトウモロコシ畑に囲まれた道だった
「ポルトガル人の道」はブドウ棚とトウモロコシ畑に囲まれた道だった

人気の「フランス人の道」避け「ル・ピュイの道」へ

 そのいっぽう、そんな人口過密気味の「フランス人の道」をあえて避ける人も少なからずいて、実は僕もそんなひとりだ。初めて巡礼道を歩いたのは、リスボン、ポルトからポルトガルを北上してサンティアゴ・デ・コンポステーラに至る「ポルトガル人の道」。そして2回目は、フランス中央部から「フランス人の道」のスタート地点に接続する「ル・ピュイの道」と呼ばれる約700キロ強の巡礼道を、ここ数年、何度かに分けて歩き続けている。「ル・ピュイの道」に関しては日本語はもちろん、英語のガイドブックもあまり見あたらないが、そのぶん、未知の経験ができるという楽しみが待っている。

「ル・ピュイの道」の起点、ル・ピュイのカテドラル
「ル・ピュイの道」の起点、ル・ピュイのカテドラル

 「ル・ピュイの道」はその名の通りル・ピュイという街(正確には「ル・ピュイ・アン・ブレ」)を起点として、ゴールは前述のサン・ジャン・ピエ・ド・ポー。そしてそこからは「フランス人の道」の約800キロへとつながる。つまり、ル・ピュイからサンティアゴ・デ・コンポステーラまでを踏破すると、合計1500キロ以上になる。ル・ピュイの街に掲げられていたサンティアゴ・デ・コンポステーラへの指導標にその数字が刻まれているのを見たときには、心が少し震えた。

思わず息をのむ美しさ

 ル・ピュイからの道中は、たわわに実った小麦の穂が風にそよぐ丘陵地帯、巡礼者を日差しから守るかのように道沿いに延びる森林、地元特産のオーブラック牛がのんびりと草をはむ牧草地などさまざま。そして、それらがときとして見せる美しさは思わず息をのむほどだ。実際、これらの風景は地元フランス人にとっても自慢のようで、巡礼道そのものの一部や、道中にあるロマネスク様式の教会は世界遺産に登録されているし、コンク、エスタン、サン・コム・ドルトといった途中の街は、フランス人が選ぶ「フランスの最も美しい村」にも選定されている。

「ル・ピュイの道」の道中にある山上宗教都市コンク
「ル・ピュイの道」の道中にある山上宗教都市コンク

 僕はこういった道や街を辿る旅を、一回につき約200キロくらいずつに刻んで何度か現地を訪れる、いわゆる「セクションハイク」と呼ばれるスタイルを取っているが、なかにはこの1500キロを3カ月近くかけて一気に歩き通してしまう強者もいる。3カ月といえば、旅とはいえもはや暮らしだ。そんな日々を彼らはどのように過ごしていくのか、次回から紹介しようと思う。(つづく)

すべての巡礼道のゴール、サンティアゴ・デ・コンポステーラのカテドラル
すべての巡礼道のゴール、サンティアゴ・デ・コンポステーラのカテドラル

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