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「ル・プチメック」日比谷店。イートインのコーナーもある=同社提供

 近年、パンブームが到来している。ハード系のフランスパンや高級食パンなどぜいたくな商品も注目され、人気店には長い行列ができるようになった。話題のパン店のオーナーや専門家にパンづくりのトレンドを聞いた。

     ●本場欧州の雰囲気

     再開発が進む東京・日比谷の商業ビル1階に、3月下旬、京都発の人気パン店「ル・プチメック」がオープンした。イギリスのモダンなホテルをイメージした店舗は、長い陳列台が目を引く。開店当日は1000人を超える客が訪れ、今も週末は行列ができる。「これまでの経験を全て生かし、理想に近い店作りができた」。代表の西山逸成(いつなり)さん(49)は現在、京都と東京で6店舗を経営する。

     1号店は1998年、京都・今出川でオープンした。パリのビストロそのままの雰囲気が話題となり、次第に有名店に。東京では日比谷店も含め2店を経営。「うちのパンは、凡人が一生懸命作った結果」と謙遜するが、西山さんはパリでフランス料理の修業経験があり、本場さながらのクロワッサンやバゲットはもちろん、フレンチの総菜を使ったサンドイッチも人気を集めている。

     「安い単価で非日常が味わえるのがパンの魅力」。作り手にとっても、料理に比べてパンはハードルが低く、チャンスが多いという。店を長く続けるのは容易ではないが、「時代の流れに関係なく、自分が面白いと思うことをやり続けて20年がたった」。そんな西山さんの店は内装にこだわり、店舗によっては昔ながらの総菜パンを並べ、パンの魅力をさまざまに伝えて注目を浴びてきた。遠方から訪れるファンも多く、「パンの消費量日本一」(総務省の家計調査)とされる京都にあって、ブームを先導する存在であり続ける。

     ●国産小麦に人気

     この20年で、パンの楽しみ方は大きく広がっている。広く食べられる日常のパンから、材料や製法にこだわるハード系の食事用パンまで、消費者の選択肢は広がるばかりだ。西洋から伝わったパンの文化は、日本で独自に進化し続けており、背景には、作り手それぞれのスタイルや個性がうかがえる。

     業界紙「パンニュース」の矢口和雄社長は「特に最近は、地域のパン祭りや百貨店のフェアなどイベントが目白押し。女性を中心に、広い年齢層でマニアが増えている」とブームの性質を語る。一方で、「コンビニとの競合や後継者不足で廃業する店も多い。近年、増えているのは郊外型の大型店や、本場に近いハード系のパンを作る店でしょう」とみている。

     日本でフランスパンの本格的な製造が始まったのは、およそ50年前。フランスの職人が本場の製法を伝え、職人から職人へと受け継がれてきた。しかし最近、その流れが変わりつつある。

     パンを研究する「パンラボ」を主宰し、著書も多い池田浩明さんは「素材に合わせて自由にパンを作ろうという職人が増えた」と指摘する。

     従来は主にパン用の輸入小麦が使われてきたが、最近は国産小麦に人気が集まっている。背景には、東日本大震災を機に「生産者同士がローカルでつながろう」という機運が高まったことがある、と池田さんは分析する。さらに「素材を追求したら国産小麦に行き着く。例えば北海道産の小麦は甘く、じんわりと記憶に残るおいしさです。食べ始めるとやみつきになる人が多く、作り手も消費者も、自然とそちらに向かっている」と説明する。

    「ベッカライ・ビオブロート」の松崎太さん。ひきたての粉で生地を仕込む=兵庫県芦屋市で、三輪晴美撮影

     ●全粒粉にこだわり

    「ベッカライ・ビオブロート」のショーケースに並んだパン=兵庫県芦屋市で、三輪晴美撮影

     素材や製法にこだわる店は増え続けている。中でも「唯一無二」と称されるのが、兵庫県芦屋市にある「ベッカライ・ビオブロート」だ。2005年のオープン以来、棚に並ぶのは、オーガニックの原材料を使った15種類のドイツパン。土日は遠方からも客が訪れ、昼前後にパンがなくなることもある。

     オーナーシェフの松崎太さん(46)は25歳でドイツに渡り、「マイスター」の資格を得た。「この道に入ったのはパン作りを志したからではなく、職人という生き方に憧れていたから」と語る。手仕事を極めるため伝統製法を学びたかったが、当時のドイツでは、大量生産が当たり前だった。そのため松崎さんは店での修業に飽きたらず、古書店を巡って文献から一世代前の製法を学び、仕事後に試作を重ねた。試行錯誤の末にようやく自分が思うパンを完成させ、7年の滞在を経て帰国し、店を開いた。

     食パン以外の商品は、クロワッサンも含め全てが全粒粉のパンだ。毎日、必要な量だけ石臼で粉をひく。全粒粉といえば栄養価は高いものの、ぼそぼそした食感というイメージがある。しかし松崎さんのパンは驚くほどみずみずしく、もっちりとしてうまみも深い。「自分にとっての理想のパン作りを進めたら、オーガニックや全粒粉に行き着いた。それが結果的に食べる人の喜びや健康につながればうれしい」。「こういう店が欲しかった」などと客からは感謝の手紙も届くという。

     小麦によってレシピは常に変化している。最近は国産小麦の作り手とも手を組む。平日は早朝3時から仕事を始め、1日の限界量まで作って売る。パン作りは全て1人でこなし、昼ごろには仕事を終えて店を出る。

     パン職人は長時間労働が当たり前の世界だが、松崎さんは暮らし第一の働き方を大切にし、現在の店のスタイルに行き着いた。「一日のうちに喫茶店で本が読めてランニングできる時間があって、後は妻と子どもの家族3人が食べていければそれでいい」。「全粒粉でもおいしい」パンは追い求め続けるが、「これからは人を育てることも少しは考えなければ」と笑顔をみせた。【三輪晴美】

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