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くらしナビ・環境

小笠原諸島はいま/下 空港と自然 住民の思い複雑

保護策が奏功し、近年生息数を増やしているアカガシラカラスバト=東京都小笠原村で、宮武祐希撮影
固有種のオガサワラビロウの前で話す松原邦雄さん=東京都小笠原村で、宮武祐希撮影

 小笠原諸島は、ハワイなどから移り住んだ欧米系島民や本土などからの移住者が独特の文化を作り上げてきた。陸続きになったことがない海洋島は固有種の宝庫で「東洋のガラパゴス」とも称され、近年はエコツーリズムの先進地として、多くの人を魅了してきた。そうした自然と文化が豊かなこの地で「島民の悲願」(森下一男・東京都小笠原村村長)とされる空港建設はどうとらえられているのだろうか。父島で聞いた。【荒木涼子】

     空港予定地は、定期船が寄港する父島の玄関口・二見港の南にある。その近く、旧日本軍の沈船がある境浦を見下ろすジャングルで、戦闘機が朽ち果てていた。半世紀を経て機体はさび、亜熱帯の植物が周囲に茂る。

     「旧日本軍に撃墜されたアメリカ軍の戦闘機です」。30年以上ガイド業を営む松原邦雄さん(60)は「戦争は勝っても負けても犠牲が出る。一方で小笠原は、植物にトゲがないなど他を攻撃しない生き物が多いのも魅力」と話す。松原さんも空港建設の行く末は気になる。「行き過ぎて歯止めがかからなくなるのが人間。空港問題も長い目で考える必要がある」と話す。

     空港開設の計画はこれまで何度も浮上しては中止になってきた。居酒屋で2代目の店長を務める菊地圭さん(38)は、「(空港が)あったらと思うこともあるが、何とかなっている。今の生活に不満はない」という。「そもそも何度も頓挫していて、できるとは思っていない」と続けた。

     一方で、医療や福祉の観点から建設を望む声もある。約20年前に家業を継いだ自営業の女性(49)は「小笠原は産めなくて安心して死ねない島」と表現する。小笠原村には診療所があるが産科医はいない。生命に関わるけがなどの場合は、南に約280キロ離れた硫黄島に配備されている自衛隊機で本土の病院に搬送される。しかし、それ以外のけが・病気や出産の場合は、約6日に1度運航され東京都心まで約24時間かかる定期船で渡るしかない。女性は「島で生きてきた私たちは、老後も島で暮らすことになるが、介護施設などは心もとない。飛行機があれば、大きな病院への通院もしやすくなる。本土との時間も短くなり、もしもの時に安心だ」と期待を込めて話す。

     また、欧米系島民の5代目である瀬堀ロッキさん(57)は終戦直後、疎開先から帰島し、アメリカ統治当時の島を知る数少ない人物だ。「返還から50年を迎える小笠原は、そもそも島民が一丸となって、島を作り上げてきた歴史がある。次の50年をどうするかも私たち次第だ。空港を造ったとしても採算が合わず、税金を投入することになるだろう。税金に頼り過ぎない“自立の道”を考えなければならないと思う」

     環境保護の観点から空港問題を見る目は厳しい。「時代が進み、自然を保護する段階から共生へと変わった。今、空港を望む人がどのくらいいるだろうか」。自然ガイドで、アカガシラカラスバトの保護に詳しい宮川典継さん(64)はこう強調した。アカガシラカラスバトは一時は生息数が数十羽にまで減少。環境省のレッドリストで絶滅危惧1A類に指定される“幻の鳥”だ。父島では、営巣地となる森への入場規制を行うなどの保護活動が奏功し、生息数が約600羽にまで回復したとされる。

     それでも宮川さんは「森など生息環境の回復は道半ば」と話す。加えて、このハトの天敵となったノネコの脅威もまだ続いており「一進一退の状況」(環境省)だ。宮川さんは陸域だけでなく、海のガイドもこなす。「青い海と空、地球そのものを感じられるのが小笠原諸島。次の時代にどうこの自然を引き継ぐかが今、我々に問われている」

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