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初の米朝首脳会談を前に

半島非核化、道筋は 毎日新聞記者が展望

米ホワイトハウスの大統領執務室でトランプ大統領(右)に金正恩朝鮮労働党委員長からの親書を手渡した金英哲党副委員長=ワシントンで2018年6月1日、ホワイトハウス提供
北朝鮮を巡る最近の動き

 12日にシンガポールで開催される史上初の米朝首脳会談。北朝鮮の非核化への道筋はつくのか。日本はどのような役割を果たせるのか。会川晴之・北米総局長▽浦松丈二・中国総局長▽堀山明子・ソウル支局長▽高山祐・首相官邸キャップの4人が展望した。【構成・坂口裕彦】

    玉虫色合意で細部後回し/対米改善につなげたい中国

     --どんな会談になるだろう。

     会川 「今年、世界で最も注目を集めるテレビショー」になるのではないか。11月の中間選挙での勝利を最優先するトランプ米大統領は、米国民にアピールできる成果を作りたい。米国との対決姿勢を示すことで国内をまとめてきた北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長も一気の非核化には応じられないが、これ以上、米国との緊張を高めたくない。「決裂だけは避けたい」という点で米朝の思惑は一致している。

     となれば、玉虫色の合意しかない。「非核化実現」という総論的な言葉こそ盛り込むが、達成時期や方法には踏み込まない。双方が都合良く解釈できる余地を残し、今後の交渉に委ねる形を取るのではないか。

     堀山 東アジアの冷戦終結につながる歴史的な転換点になるかもしれない。トランプ氏は休戦状態が続く朝鮮戦争(1950~53年)の終戦宣言についても議論すると言及した。

     過去の米朝交渉ではオルブライト米国務長官(当時)が訪朝する直前の米朝共同コミュニケ(2000年10月)で、終戦に向け、韓国や中国も交えた4者会談の必要性が確認されたが、米国の政権交代で具体化しなかった。07年の南北首脳会談の合意文書にも盛り込まれたが、やはり米国が主導しないと前には進まない。終戦宣言の発表は難しいだろうが、(今年4月の南北首脳会談で発表された)板門店宣言に明記されたように年内に実現できるのか、条件は何か--といった道筋は見えてくるのではないか。

     会川 核兵器を搭載できる大陸間弾道ミサイル(ICBM)の議論も大事だ。米本土を直接狙うICBMは米国にとっても脅威。これを取り除くことに近づけば、トランプ氏は「米国はより安全になった」とアピールできる。北朝鮮は4月20日に核兵器と弾道ミサイルの実験凍結を打ち出した。多少なら譲歩できるのではないか。

     --韓国は「米朝の仲介役」を自任してきた。

     堀山 文在寅(ムンジェイン)大統領は、南北首脳会談の目標に「米朝首脳会談の成功」を掲げ、米朝が決裂すれば板門店宣言も共倒れになるという構図をあえて作った。ただ、米朝首脳会談中止の危機を救った2回目の南北首脳会談までは役割を果たせたが、米朝対話が本格化すれば、存在感は薄くなるという構造的なジレンマを抱える。

     --中国は北朝鮮の「後ろ盾」とも言える存在だ。

     浦松 最大の関心は米中関係の改善につながる結果になるかだ。中国の国内総生産(GDP)は20年代後半にも米国を抜くと予想されている。米国には「中国の大国化をこのまま座視できない」との対中強硬論が根強い。中国指導部は米国との衝突回避を中長期的な戦略目標と定めている。

     米朝が南北に続いて、朝鮮戦争の終結を目指すことになれば、朝鮮戦争に義勇軍を送って北朝鮮を支えた中国も当事国になる。朝鮮戦争を終わらせる方向で米朝が対話を始めれば、朝鮮半島情勢を緩衝材として米中関係の改善につながると中国側は期待している。

     --米朝会談に期待する中国の動きは。

     浦松 米国を見据えた中国の変わり身の早さは劇的だった。米朝首脳会談の動きが表面化するまでは、歴史的にも条約上も同盟関係にあるはずの中国と北朝鮮は非常に冷たい関係だった。金委員長は北朝鮮の最高指導者になってから6年以上も「後ろ盾」の中国を訪問していなかった。

     南北に続き、米朝の首脳会談の調整が表面化すると、3月下旬に金委員長の電撃訪中の受け入れに動いた。両国の事前調整は伏せられ、帰国してから習近平国家主席との会談内容を発表するという秘密訪中スタイルだった。予想を裏切る形での秘密訪中の受け入れは、中国側にとって北朝鮮との「特別な関係」を米国に見せ、北朝鮮カードを握る狙いがあったのではないか。

    北朝鮮、廃棄先行で主導権狙う

     --非核化の行方は。

     会川 北朝鮮は小出しに譲歩を重ね、制裁緩和や経済支援などの恩恵を得る「サラミ方式」を駆使し、最終的に体制保証の取り付けを狙うだろう。米国は核兵器はもちろん、弾道ミサイルや生物・化学兵器などの解体も含めた行程表を作ることを目指している。トランプ氏は「米国の歴代政権は過去25年間、失敗を重ねてきた」と批判している。「サラミ方式」に乗ることは、従来路線の繰り返しになりかねない。

     鍵を握るのは、徹底的な検証の実現だ。過去の全ての核活動を申告させ、矛盾が無いかを徹底的にチェックしなければならない。施設訪問だけでなく、運転記録の提出、計画に関わった人々へのインタビューなどで全容を把握する。それには、国際原子力機関(IAEA)の立ち会いが必要になる。北朝鮮の核開発は規模が大きく、奥が深い。放射能汚染の問題もあり、時間のかかるやっかいな作業だ。

     堀山 北朝鮮は「核保有国」として軍縮交渉に臨む立場は変えていない。すでに保有する核を簡単には手放さないだろう。ただ、私は、北朝鮮の交渉戦術は変わったとみている。見返りに応じて少しずつ核活動を停止するサラミ方式は卒業し、核実験場を爆破した時のように、一方的に核廃棄対象や期日を決めて非核化交渉の主導権を握ろうとするのではないか。たとえば「核弾頭数発の解体を早期に実施する」と提起するかもしれない。核弾頭が全体で何発あるか、製造できるのかを先に把握するのが重要だが、その検証をさせないような「くせ球」を次々と投げてくるのではないか。

     --核実験場爆破は評価できるか。

     会川 IAEAなどの専門家が立ち会っておらず、まったく評価できない。あれでは証拠隠滅だ。北朝鮮しか過去6回の核実験のデータを持っておらず、実験で使われた核物質の種類や量もわからない。

     堀山 文氏は爆破直後の記者会見で、北朝鮮を高く評価した。トランプ政権が米朝首脳会談の中止を発表した理由の一つとして、専門家を立ち会わせなかったことを指摘した直後だったにもかかわらず、北朝鮮の立場を代弁した。過去の核物質の検証に時間を割くより、交渉プロセスを早く進めたいという韓国の思惑の表れだ。

     浦松 中国は5月7、8日に金委員長の2回目の訪中を受け入れた。この際、習氏は金委員長に直接、「朝鮮(北朝鮮)側が戦略の重心を経済建設に移すことを支持する」と明言した。核・ミサイル開発から経済建設に軸足を移すよう促したのだ。「後ろ盾」である中国トップの発言を金委員長は重く受け止めたはずだ。

     中国も朝鮮戦争以降、旧ソ連や米国、ベトナムなどとの戦争続発を想定し、軍拡を続けた。しかし、毛沢東の死去後、後継者となったトウ小平は、これからの時代は戦争ではなく、平和、発展だと考え、改革・開放を進め、中国を発展に導いた。

     習氏が2回目の会談場所に選んだ大連は、北朝鮮と向かい合う改革・開放政策の先進地だ。金委員長が米国との戦争は起きない、と確信することが非核化の鍵になると中国はみているのだろう。

    日本、「トランプ氏妥協」を懸念

     --日本政府はどう見ている。

     高山 日本人拉致問題の進展につながることへの期待は大きい。安倍晋三首相はトランプ氏が昨年大統領に就いた直後から拉致問題の重要性を説いてきた。北朝鮮の段階的な核廃棄に合わせて見返りを与えるやり方が、逆に核・ミサイル開発の「時間稼ぎ」に使われた負の側面も繰り返し説明した。実際にトランプ氏が「最大限の圧力」による「完全かつ検証可能で不可逆的な方法での非核化」(CVID)を求めてきたのも、首相の指南による一定の成果と言っていい。

     --不安材料は。

     高山 トランプ氏の「心変わり」だ。米中間選挙を控え、目先の成果を焦って妥協しかねない。首相周辺も「首相は非常に心配している」と明かす。7日の日米首脳会談も、トランプ氏が簡単に妥協しないよう直接クギを刺すためだ。実際、トランプ氏は朝鮮労働党の金英哲(キムヨンチョル)副委員長との会談後、段階的な非核化に理解を示し、「今後、最大限の圧力という言葉は使いたくない」とも述べた。米国が拉致問題を含む人権問題の解決や短・中距離ミサイル撤廃まで突きつけなければ、トランプ氏との緊密な関係をアピールしてきた首相自身への風当たりは強まりかねない。

     --北朝鮮の非核化における日本の役割は。

     高山 実際に動き始めれば、経済支援を行う重要国となる。既に韓国やロシアなどの関係国に多国間協議の枠組みを打診している。経済支援の議論をリードしながら、北朝鮮との直接交渉につなげ、拉致問題の進展などを図る戦略だ。

     --米国、韓国は日本に何を期待している。

     会川 米国に歩調を合わせることに加え、非核化作業に関わる費用の分担、北朝鮮への経済支援などを期待しているのではないか。

     堀山 南北は、北朝鮮・開城(ケソン)に南北連絡事務所を開設することで合意しており、対北朝鮮制裁が解除されたら、韓国は経済協力事業を再開する構えだ。02年の日朝平壌宣言に基づく経済協力資金が動き出せば、「南北事業と連携させて、対北朝鮮支援の大きな枠組みをつくりたい」(文氏ブレーン)と日本への期待感は広がっている。当面は日韓の歴史問題が激化しないようコントロールしながら、対北朝鮮政策で日本と協調しようと働きかけるだろう。

     --日朝首脳会談の可能性は。

     高山 まだ見通せない。日本政府内で期待感はあり、日朝間でも水面下の探り合いは始まっている。北朝鮮が米中韓各国との首脳会談を実施する中、「取り残されている」との批判が出ていることへの焦りもある。だが会談しても拉致問題で目に見える成果が得られなければ、逆に首相の立場は苦しくなりかねない。北朝鮮が拉致問題を「解決済み」とする立場を変えることが開催の前提。米朝後の北朝鮮の「変化」にかかっている。

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