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@上海・中国観察

米朝首脳会談の舞台・シンガポールを歩く

マーライオンと、シンガポールを代表する建物の一つであるホテル「マリーナベイ・サンズ」(左奥)の前で記念写真を撮る観光客ら=2018年6月4日、シンガポールで工藤哲撮影

 史上初となる12日の米朝首脳会談のホスト国・シンガポールに世界の目が注がれている。会談時期の前後には、日本や韓国を中心に2000人以上の取材陣が訪れることになりそうだ。

 シンガポールは、マレー半島の先端に位置し、マーライオンやナイトサファリに加え、五つ星の高級リゾートホテルが集まる観光地だ。「ポイ捨て禁止など、ルールが厳しい」や「英語が通じる」、「東南アジアで一番の金持ち国家」といったイメージかもしれない。首脳会談を控えた各地の様子を見に行ってみた。

セントーサ島のホテル「カペラ・シンガポール」の近くで車や人の出入りを取材する日本メディアの様子を伝えるシンガポール各紙=2018年6月6日、工藤哲撮影

歴史的な首脳会談の舞台となる「カペラ」

 シンガポールでは、トランプ米大統領の公式行事を統括するヘイギン大統領次席補佐官らと、北朝鮮で金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の「執事」と呼ばれるキム・チャンソン国務委員会部長らとの間で、会場設営や警備、記念撮影などの交渉が進められてきた。

 協議が行われていたのが、南部のリゾート地・セントーサ島内にあるホテル「カペラ・シンガポール」だ。1880年代に英国軍が使用していた建物を使用しており、シンガポール在住者によると、海が近く広々とした構造が魅力だ。レディー・ガガさんやマドンナさんが宿泊したこともあるという。値段は季節によって異なるが、1泊の相場が約700シンガポールドル(約6万円)=以下ドル、スイートルームは1300ドル(約11万円)とされる。

米朝首脳会談が開かれるホテル「カペラ・シンガポール」につながる入り口で人や車の出入りを監視する警備担当者=2018年6月4日、シンガポールで工藤哲撮影

 セントーサ島に入って車でしばらく進むと、「カペラ」の入り口の看板を見つけたが、警備担当者が人や車の出入りを厳しく点検していた。「個別事情のため」との理由で入るのを拒絶された。関係者以外の立ち入りは既に制限されている。看板の前には一時、人や車の出入りを確認しようと多くの日本メディアが詰めかけた。張り込む様子は現地メディアでも大きく報じられた。

 歴史的会談は、この「カペラ」で開催されることが決まった。世界中のメディアの取材が大きな宣伝効果につながり、「セントーサ島」は、会談ゆかりの場所として知名度を一層高めそうだ。

小高い森の「シャングリラ」

小高い森に囲まれる「シャングリラ・ホテル」=2018年6月1日、シンガポールで工藤哲撮影

 シンガポール中心部を東西につなぐオーチャード・ロード。西の端からさらに西にしばらく歩くと、小高い場所に見えてくるのが「シャングリラ・ホテル」だ。ガイドブックでは「世界クラスの名ホテル」と紹介され、三つの棟が連なる構造だ。1泊480ドル(約4万円)以上とされ、一般向けで最も高いスイートルームで約1100ドル(約9万円)だ。

 ここも、米朝首脳会談の舞台の一つになるとみられている。会談に備え、周辺一帯は「特別行事エリア」に指定され、出入りが規制される。

 シャングリラは、毎年6月にアジア太平洋地域の国防幹部らが集まり、課題を話し合う「アジア安全保障会議」(別名シャングリラ・ダイアローグ)が開かれるホテルとして知られる。米国の国防長官や日本の防衛相も参加し、近年は南シナ海問題が大きなテーマになっている。

「シャングリラ・ホテル」のロビー=2018年6月1日、シンガポールで工藤哲撮影

 今月この会議を取材し、ホテルの中を歩き回ってみた。

 ロビーに入って右折し、安全検査を受けて進むと、広い会議場がある。ここは2015年に、中国の習近平国家主席と台湾の馬英九前総統の中台首脳会談が開かれた場所だ。

 私も当時取材した記者の一人だが、2人がどこから記者会見場に入ってくるのか直前まで分からず、構造の複雑さが強く印象に残った。シャングリラは数々の首脳外交の舞台になっており、オバマ前米大統領らも利用している。

 ホテルの部屋は約800あり、エスカレーターやエレベーターがあちこちにある。会議取材で悩まされたのはプレスルームの狭さで、連日早朝からメディア各社による席の争奪戦が繰り広げられた。

「シャングリラ・ホテル」に近い道路に設置された車の検問ゲート。「シャングリラ・ホテル」は警備しやすいとされる=2018年6月1日、シンガポールで工藤哲撮影

 小高い森に囲まれており、近くにはレストランや商店もほとんどない。ホテルに連なる道路が少なくて狭く、警備や交通規制がしやすいという。

由緒ある「フラトン」

 米朝会談で注目を集めているホテルは他にもある。「フラトン・ホテル・シンガポール」だ。シンガポールのシンボルであるマーライオンから地下道を歩いて数分の距離にある。1928年に建てられ、役所、郵便局、ホテルと変遷してきた伝統ある建物だ。当時の構造の90%が残されている。1泊430ドル(約3万5000円)からで、カウンターで聞いたところ、一番高いプレジデンシャル・スイートは1泊8000ドル(約66万円)だ。建物を一回りしてみたが、出入り口はそれほど多くなさそうだ。

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が宿泊する可能性が地元メディアで報じられた「フラトン・ホテル・シンガポール」=2018年6月4日、シンガポールで工藤哲撮影

 地元英字紙「ザ・ストレーツ・タイムズ」は、金正恩委員長がこのホテルを利用する可能性があると伝えた。宿泊費は、シンガポール側が負担する見通しだ。

臆測飛び交う

 会談に利用される候補地は、これまでに複数の場所が取りざたされてきた。地元メディア関係者の間では、中立性を重視する事情から、大統領官邸(イスタナ)も会談の候補地ではないかといううわさも流れた。ここは年に数度しか一般公開されず、入り口周辺は厳重な警備態勢が敷かれている。

 また、三つのビルの上に船の形をしたプールや展望デッキが乗り、シンガポールを代表する建物の一つであるホテル「マリーナベイ・サンズ」も候補地の一つと伝えられた。

 サンズは、トランプ氏を支持する米国のカジノ王、シェルドン・アデルソン氏が保有する総合エンターテインメント施設で、カジノもある。交通規制や安全面に課題が残るとされるが、ホテルの女性担当者は「安全面では自信がある。VIP用の特別な出入り口も当然ある」と話した。

ビルの15階の一角にある在シンガポール北朝鮮大使館=2018年6月4日、シンガポールで工藤哲撮影

北朝鮮大使館を訪ねてみたが……

 北朝鮮国民は、東南アジアの経済大国であるシンガポールでさまざまなビジネスに携わり、外貨獲得に力を注いでいるとみられる。実際のところを尋ねようと、大使館に足を運んでみた。

 国会議事堂の真正面にあるビルの15階。廊下を歩いた先に朝鮮語の看板を見つけた。曇りガラスのドアで、中の様子はうかがえない。ノックしてみたが、応答もなかった。

 韓国人のカメラマンが、北朝鮮大使館員の出入りの瞬間を押さえようと入り口近くで待ち構えていた。このカメラマンによると、ここ数日は2人の出入りしかなかったという。

地元の人は

 地元の人たちは歴史的会談をどう受け止めているのだろうか。何人かに尋ねみた。

 ホテル関係者の女性は「会談はいいこと。経済効果も結構ありそうだし。北朝鮮も含め、国を問わずにここはすべてのゲストを歓迎していますよ」。タクシー運転手の男性、アブドゥルハリムさん(57)は「シンガポールは基本的にはニュートラル(中立)さ。どっちも遠い国だし。困るのは、期間中に交通規制で移動がちょっと不便になることかな。道がふさがれて仕事をするには面倒なことになる。でも、会談自体はいいことだよ。難しい問題が解決されるしね」と話してくれた。

 歴史的な現場としてシンガポールが選ばれたことを歓迎する声が多かったが、「政治のことはよく分からない」という人も少なくなかった。肌で感じるシンガポールの物価は日本の1・5~2倍の水準だ。物価が上昇し続けているうえ、格差も次第に広がっており、国民は不満を募らせている。会談よりも日々の生活で精いっぱい、という人も少なくないようだ。

厳重に警備されるシンガポール大統領官邸の出入り口=2018年6月4日、シンガポールで工藤哲撮影

シンガポール政府は「対等」演出の気遣い

 シンガポール政府はホスト国として、会談の「対等の演出」には特に気を使っているようだ。地元メディアによると、飛行機や車の乗り降りなどでも片方が見劣りすることがないよう、シンガポール側が車を貸すなどの対応も検討されているという。コーヒーの味も、東南アジアの特徴を薄め、より国際標準に近づけることになる、とも伝えられている。政府要人も、会談に関する発言は慎重だ。

 シンガポールメディアは、自国の役割について「ただお茶とコーヒーを提供するだけ」と表現している。そうはいっても会談が成功すれば、国際的な存在感や安全度への信頼感が高まり、国益につながるというしたたかな判断があるのは確実だ。【工藤哲】

工藤哲

上海支局記者 1999年入社。盛岡支局、東京社会部、外信部、中国総局(北京、2011~16年)、特別報道グループ、外信部を経て、2018年4月から現職。北京駐在時には反日デモや習近平指導部が発足した第18回共産党大会などを取材してきた。著書に「中国人の本音日本をこう見ている」(平凡社新書)など。

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