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アートの地平から

アーツ前橋館長、住友文彦さんのコラムです。

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アートの地平から

「農村」を問い直す=住友文彦

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 ロンドンからおよそ2時間電車に揺られ、さらに車に乗ること20分という田園地帯にある小さなギャラリーに大勢の観客が押し寄せる展覧会を見てきた。展示物は農家や鉱山労働者の生活や仕事で使われる道具をはじめ、宗教や自然保護の社会運動史などの資料、そして近現代の美術家の作品まで並ぶ濃密さ。これは「私たちが住み、離れ去った土地」と題された展覧会で、美術と社会史が交錯する地点から田舎や田園地帯の表象を捉え直す試みである。牧歌的なドローイングからメディアに現れる現代の農村のイメージまで、独特の風習や服装を自虐的に描くようなユーモアも満載で、急速に進む都市の資本主義に抵抗する社会運動の理想と現実もそこに流れ込む。モノとイメージが描き出す近代史としても大変面白かった。

 企画したアダム・サザーランドは、湖水地方・グライズデールの山の中で農作業や村の建物を修復しながら長年芸術活動を実践し、ロンドンの美術大学を卒業した若手芸術家たちに大きな影響を与えてきた。その地は、産業革命によって粗悪な製品が増え経済格差が拡大した時代に丁寧に物を作ることに精神性をみいだしたジョン・ラスキン(1819~1900年)の思想や利他的な行動を伝える場所でもある。

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