オピニオン

海の植物プランクトンから地球温暖化に迫る 東海大学工学部光・画像工学科 教授
虎谷 充浩

2018年6月1日掲出

 地球温暖化など気候変動に対する不安が増大している。温暖化の影響やその対策を考えるためには、現実の地球の姿を正確に観測し、知ることが必要だ。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が昨年12月、気候変動観測衛星「しきさい」を打ち上げた。この観測プロジェクトに海洋リーダーとして加わっている工学部光・画像工学科の虎谷充浩教授に観測課題や意義を聞いた。【聞き手・銅崎順子】

 

 ――昨年末に打ち上げられた気候変動観測衛星「しきさい」は、何を観測しているのでしょうか。プロジェクトについて教えてください。

 地球温暖化や大きな気候変動をとらえることが目的です。そのためには気候に影響する海や大気、陸、雪氷圏などの観測が必要です。「しきさい」は地球の全表面を2日かけて撮影します。名前が示すとおり、「しきさい」はそれらを青、緑、赤といった主に可視光で撮影します。人工衛星の青、緑、赤の画像を合成すると見た目としては写真のようです。青い場所は水なので海や湖と判断します。水域でも、わずかに緑っぽい青というようなほんの少しの色の違いを見分けることができます。海を見慣れている漁師は気付くでしょうが、普通の人は違いが分からないレベルです。色の違いは、水に含まれる植物プランクトンや砂の量によって変化します。色の違いを調べることでその水に何がどの程度含まれるのかがわかるのです。どれぐらいの量がわかるかというと、1トンの水の中に数ミリグラムの植物プランクトンの色素が入っていることがわかります。水の中に植物プランクトンがどのくらいいるのか、大発生して赤潮になっているのか、土砂はどれくらい含まれているのかということを上空800キロから観測しています。

 現在は海水に含まれる植物プランクトンの種類による色の違いの研究が進んでいます。植物の葉も種類によって緑の色合いが違うように、色で植物プランクトンの種類が分かれば、毒性のある植物プランクトンなのか否かが分かり、漁業被害を防ぐことにもつながります。

 

 ――海の植物プランクトンの量や土砂の量が気候変動に関わるのですか。海水温は観測しないのですか。

 植物プランクトンは二酸化炭素を使って光合成をします。温暖化の原因の一つとされる二酸化炭素を植物プランクトンは減少させます。最近の衛星データなどを使った研究で、海は人間が排出している二酸化炭素の30%を吸収していることがわかってきました。大気中の二酸化炭素の量が増えると海中の二酸化炭素が増え、海が酸性化することも問題になっています。海洋の酸性化は、海中に暮らしている多くの生物に影響すると指摘されています。今後の変化を見ていく必要があります。

 表面の海水温は熱赤外線で調べます。「しきさい」は熱赤外線センサーも持っています。植物プランクトンが多いと大気中の二酸化炭素を減らす方向に進むと考えられますが、温暖化で表面の海水の温度が上がりすぎると植物プランクトンが増えなくなる可能性があります。太平洋の中心部、ハワイ付近は透明できれいなのですが、海の栄養分が少なく植物プランクトンが少ない状況です。温度差が大きくなると、海の中で表面付近の温かい海水と植物プランクトンの栄養源が含まれる深い海の冷たい海水が混じり合わなくなり、植物プランクトンが生息できる環境ではなくなっているのではないかと推測する研究者もいます。植物プランクトンの増減の観測は過去20年続いているので今後も続け、仮定や推測を確認、実証できればいいと思っています。

 「しきさい」は、これまでの人工衛星に比べ高解像度になりました。以前は1キロ四方のメッシュでしか解析できなかったのですが、「しきさい」は16倍の250メートル四方で解析できます。より細かくなったので、違ったものが見えてくるのではないかとわくわくしています。沿岸部の海も解析できるようになり、台風や大雨の際の土砂の流出、赤潮の発生もよく分かるようになります。漁業にも役立ちそうです。

 

 ――「しきさい」は、4月から本格運用を始めたと聞きました。

 本格運用を始め、今年12月のデータ公開に向けて準備が進められています。「しきさい」は上空800キロと遠く離れたところから地球を観測するので、観測値から推定されたものの誤差はどれくらいあるのかという検証を今、世界各地で行っています。

 今年5月20〜30日、私の研究室の学生が海洋研究開発機構(JAMSTEC)の東北海洋生態系調査研究船「新青丸」に乗船して三陸沖の海洋観測を行いました。海中の光の観測や海水を採取して分析するためです。国内外の研究者と協力して数千カ所で観測を行い、人工衛星からの画像解析結果と実際のデータを比較し、誤差を調べることやよりよい精度で推定するため手法の改良が進められます。

 

 ――人工衛星の画像から本当の海の姿を知るために多くの苦労があるのですね。

 800キロ上空からの観測なので、大気の影響もかなり受けます。春がすみのときと秋晴れのときでは遠くの山の見え方が全く違いますよね。山の姿が変わったわけではなく、山で反射した光が見ている人に届くまでの間に大気中の塵などによって散乱されるためです。衛星から海の色を推定するときも大気の補正が必要です。大気中での反射光は8〜9割で、残りが海中からの光(海の色)です。大気はいつも同じ状態ではなく黄砂や、火山噴火の噴煙の影響を考慮しなくてはいけなくなります。2003年のシベリア森林火災では多くの「すす」が大気中を舞いました。「すす」は小さいため空気中に漂いやすく、黒いので光を吸収します。そのときの人工衛星からの画像では日本海に植物プランクトンが大発生したことを示す真っ赤になったのですが、現実では大発生などありませんでした。これは補正方法を変える研究につながりました。

 

 ――今後どのような研究を考えていますか。

 台風によって植物プランクトンが増えているのかどうかを中長期的に調べたいと思っています。太平洋の中心部は海の栄養分が少なく植物プランクトンが少ないのですが、台風が発生して海中をかき混ぜると海底にたまっている栄養分が海上付近に上がり植物プランクトンが増えます。温暖化が進むと台風の発生個数は減るけれども勢力は強くなると言われています。過去の観測では台風で植物プランクトンが増えたという研究もあるのですが、今は増えていない。深海部から栄養が上がれないほど水温の差が大きくなっているとも考えられます。これらの真実を突き止めるためには、私一人だけではできません。海洋物理学者をはじめとして化学や生物学の専門家の力が必要ですし、自分もそれぞれの分野を知らないといけない。海の研究は、こんな学際的な面が魅力です。

 

台風通過後に大量の土砂か“流れ込んた”東京湾 2017年10月23日撮影
普段の東京湾 2018年2月7日撮影

 ――人工衛星からの画像の中で印象に残っているものは何でしょうか。

 ベーリング海(太平洋の北部)が植物プランクトンの円石藻(えんせきそう)の大発生で、まるでミルクを流したような白い海になった画像はとてもきれいでした。米航空宇宙局(NASA)の発表した画像で、私が関係していないのが悔しいのですが(笑)。円石藻は電子顕微鏡でしか見えないくらい小さいのですが、実際に2000年に現地に行ったときも大発生していて白く見えてビックリしました。他にも海流の影響で植物プランクトンの分布が渦の模様を描くこともあり、衛星画像を見るのは楽しいです。

 国内では東京湾、伊勢湾、大阪湾といった内湾です。衛星データを見ると、湾の外側の太平洋と湾の内側では、色の違いがよくわかります。水質をきれいにする活動が続いていて、最悪の時期に比べると良くなっていますが、まだまだということも分かります。高解像度な「しきさい」のデータを活かした沿岸の海洋環境モニタリングが期待されています。

 

 ――海へ興味が向いたきっかけは何ですか。

 自分自身の記憶はないのですが、3歳の頃、家族旅行で海に行ったとき、海が塩辛いと聞いて「(こんなに大量の水があるのに)塩辛くなるわけがない」と言って、海水をなめたんだそうです。実際には塩辛いわけですから、すごく不思議そうな顔をしていたらしいです。小さい頃から自然が好きだったので、その辺りが原点かなと。海は広いし未知なこともいっぱい、南極や北極にも行けると東海大海洋学部に進学しました。院生時代は水産庁の南極海のオキアミ調査に参加して半年間船上にいたこともあります。水中の光の観測やオキアミの体長を測定する仕事でしたが楽しかったですね。修士課程から現在に至るまで人工衛星を使って海の色を解析する衛星データ解析を専門にしています。

 

 ――研究のためにコンピューターに向かうだけではなく海にも出るとのことですが、学生を実際に船に乗せていると聞きました。学生の反応はいかがですか。

 昨年度から学生を実際の海洋調査に加えてもらっています。コンピューターの前だけだと、実際の海の様子やサンプル集めの大変さが分かりません。海は凪の時も荒れる時もあります。航海に出ると自分で海水をくみ、船中でろ過し、凍らせ、分析をする作業をこなすことになります。観測データの重要さや大切さ、分析してくれる人への感謝の気持ちを身につけてくれます。研究への向き合い方も変わりますので、積極的に航海に行かせるようにしたいと考えています。ただ航海は時に比較的長期になるので、大学の授業との兼ね合いがあり、悩ましいところです。私自身も海に出たいのですが、授業期間中だと断念することが少なくありません。

 

 ――若い人たちにメッセージをください。

 人工衛星から見る地球の姿は、美しいです。人の影響によって地球の姿は徐々に変化しつつあります。コンピューターやスマホの世界だけでなく、自然にも興味を持って欲しいですね。私の専門で言えば、コンピューターも海(自然)も好きだと理想ですが、なかなかそんな学生は少ないのが実情です。自然はおもしろいということを若いときに知ってほしいです。

 

東海大学工学部光・画像工学科 教授 虎谷 充浩 (とらたに みつひろ)

東海大学海洋学部海洋工学科卒業、同大学院海洋学研究科海洋工学専攻博士課程前期・後期を経て、1992年に東海大学開発工学部情報通信工学科助手。1996年に同講師、2002年に東海大学開発工学部感性デザイン学科助教授、同准教授、2010年に東海大学工学部光・画像工学科准教授を経て2011年より現職。2006年に1年間、東京大学海洋研究所附属海洋科学国際共同センター客員助教授。1994年東海大学大学院海洋学研究科において博士号(工学)を取得。1987~1988年に水産庁第5次南極海調査航海に補助調査員として乗船、2000年アラスカ大学北極圏研究センターに5ヶ月間滞在。修士課程の頃から継続してJAXAの海色衛星データの大気補正アルゴリズム開発などを担当。