オピニオン

街中どこでも発電、充電 自然エネルギーを利用した効率のいい街づくりを目指して 東海大学理学部化学科 准教授
冨田 恒之

2018年4月2日掲出

 集中型エネルギーシステムの弱さがあらわになった東日本大震災を契機に注目される地域分散型エネルギー。よりクリーンでコストがかからず便利な生活を実現するため、技術の進化とともに地域に根ざした新たなエネルギーシステムを目指そうという動きが出ている。理学部化学科の冨田恒之准教授に「『人と街と太陽が調和する』創・送エネルギーシステム」について話を聞いた。【聞き手・兵頭和行】

 

 ――取り組んでいる「『人と街と太陽が調和する』創・送エネルギーシステム」について教えてください。

 一言で言うと「効率のよい太陽電池と熱音響機関による発電・送電を取り入れた街づくり」です。いかに効率よく太陽電池を作っていくか、というエネルギーの研究と熱音響機関という新しいシステムを融合した研究です。それら太陽電池と熱音響発電システムの二つでエネルギーをつくり、できたエネルギーを無線で車などの電力が必要なものに送ること、トータルでエネルギーを考えるという研究です。

 

 ――熱音響機関はどういうものですか。

 気体は、温度が温かいと膨張します。気温が冷たいと収縮します。この現象を応用して熱を電気に変換する装置です。熱い部分と冷たい部分を共存させることで熱い部分で空気が膨張し、冷たい部分で空気が収縮するので、膨張と収縮を繰り返していくことで振動が発生します。振動は、人間にとって音として聞こえるものですが、熱からも音は発生します。これが熱音響機関です。音、つまり空気の振動を、リニア発電機を使って電気に変えることで発電ができます。

 

 ――熱はどこから。

 一つは自然の熱として太陽光を集光する。もう一つは工場や自動車などの廃熱利用です。車の場合、冬場は排熱を暖房で使いますが、暖房で使用する熱以外は、使用されないまま、垂れ流しで外気を温めているだけです。その熱を電力として回収します。

 

 ――発電効率はいいのですか。

 原理上はおよそ30%と非常に高効率です。太陽光は、およそ半分が目で見える可視光です。残り半分が目に見えない赤外線から成り立っています。太陽電池としては可視光と一部の赤外線しか発電に利用できないので、残りの赤外線はまったく使われません。その使用されていない赤外線を集めて熱にして、熱音響機関を介した発電に利用した方が発電効率は上がるのではないか考えています。

 

 ――太陽電池では赤外線は利用されない。

 太陽電池で利用されない赤外線を利用できるように拡大していくことが太陽電池の研究としては大事です。しかし、使える光量が増えれば、得られる電圧が下がり、結果的に得られるエネルギー量はあまり上がらないのが現状です。この打開策の一つとして、可視光の波長800ナノメートルまでを太陽電池で使い、それ以上の長波長側は全て熱として回収することが挙げられます。熱音響機関の発電には熱が必要なので、可視光、紫外光、赤外光という波長は関係ありません。そのため、可視光の使いやすいところだけを太陽電池で使い、使いにくいところは熱として熱音響機関を使うということが今回の研究のひとつです。

 

 ――電気を無線で送るという技術はどういうものですか。

 スマートフォンを置くだけで充電するQi(チー)という規格があります。約1センチ以下の近い距離であれば充電できますが、距離が離れると電気を送ることができません。例えば、駐車場の下にコイルが置いてあって、電気自動車を充電しようと試みると、約30センチ離れているため充電はできません。今後、この方式を適宜変えていく必要があります。例えば、現在の充電までの距離を1センチから10センチまで伸ばす、さらに1メートルまで伸ばすことができれば、充電にかかわる用途の幅が広がっていきます。

 

 ――イメージしている街作りとは。

 無線電力伝送では、駐車場あるいは道路に送電コイルが設置できれば、電気自動車を駐車するだけで充電したり、移動しながら充電できます。この無線電力伝送がインフラの一つとして公共交通機関で利用できれば、有線ではない分、使用用途はもっと広がります。

また、「有機ペロブスカイト太陽電池」という種類の太陽電池があります。通常の太陽電池の製造と比較して低コストかつ低エネルギーで製造できるため、短時間でコストとエネルギーを回収できるメリットがあります。また面白いところでは、「色素増感型」といった色素を用いた太陽電池もあります。これはいろいろな色で製造できるので、景観を損なわないように公園に緑色の太陽電池を設置するということもできます。

 

 ――有機ペロブスカイト太陽電池とはどういうものですか。

 「有機ペロブスカイト」太陽電池は、現在普及している太陽電池と同程度の発電効率が可能で、より低コストで製造できます。通常、太陽電池はシリコンが使用されています。そのシリコンを製造するために99.9999%以上の超高純度にする必要があります。そのため、製造には結構なエネルギーが必要です。その電気を回収するまでにかかる年数がどうしても長くなります。有機ペロブスカイト型は、シリコン型のような完璧なものを作らなくても効率が高いものができる。簡単にいえば、塗って出来るようなそういう太陽電池です。

 軽いというメリットもあるので、例えば、シリコン型では結構な重量を伴うため既存の屋根につけると、補強による大規模な工事が必要になったりします。有機ペロブスカイト型ですと、既存の屋根に載せても問題ない軽さで作れます。つまり、追加工事なしでそのまま上に置けばいいということです。

 

 ――課題はないのですか。

 「有機ペロブスカイト型」の一番の課題は、劣化することです。太陽電池はかなり長期間使用するものなので、それほどまでの信頼性がないのが現状です。劣化の原因もまだ把握できていませんが、おそらく光や水など様々な要因から劣化が始まり複合的に絡み合っていることが原因だと考えていますが、究明することは困難です。まずは、「有機ペロブスカイト型」の劣化をどう抑えるのかというメカニズムの検証から始めていきたいと考えています。

 色素増感型は、効率があまり高くないというのが問題です。また、化学的な電池で液体を使うので、フィルム状には加工できますが、通年で使用した場合、液体が漏れる可能性もあります。その結果、固体化しようと様々な試みが行われました。「有機ペロブスカイト型」が発明できたのは、固体化しようと試みた結果だったこともあります。もともと同じ扱いだったのが、現在、別の太陽電池と言われるようになっています。

 

 ――プロジェクトのメンバー構成は。

 私と勝又哲裕先生(理学部化学科・教授)の2人が、化学的なアプローチで有機ペロブスカイト型太陽電池を研究しています。そして、梶田佳孝先生(工学部土木学科・教授)は都市計画を中心に研究して長谷川真也先生(工学部動力機械工学科・准教授)が熱音響機関、岩森暁先生(工学部機械工学科・教授)は色素増感型太陽電池を研究しています。この色素増感型太陽電池は、最終的には塗って作れるような太陽電池を目指していてインクジェットのプリンターで電極を作っていくことを研究しています。これは独自の手法を持っているため、早稲田大学の梅津信二郎准教授と共同で研究しています。

 電気電子系では、稲森真美子先生(工学部電気電子・准教授)が無線電力伝送を研究し、金子哲也先生(工学部電気電子・講師)は有機ペロブスカイト型太陽電池と熱音響機関、それから、シリコン型太陽電池を長年研究してきた磯村雅夫先生(工学部電気電子・教授)には有機ペロブスカイト型太陽電池を担当していただいています。太陽電池に非常に造詣が深く、エンジニアとしての経験が豊富なので、私たち化学系を専門とする研究者とほかの分野の研究者でお互いに足りない分野を補いやすいような関係で研究しています。

また、木村英樹先生(工学部電気電子・教授)と佐川耕平先生(工学部電気電子・助教)には、音から電気を効率よく作るための「リニア発電機」(※スピーカーの原理を逆にしたイメージ)を担当していただいています。さらには、「有機ペロブスカイト型太陽電池」の作製としてポスドク(博士研究員)でバングラデシュ人のモハマド・シャヒドゥザマンさんに担当してもらっています。

 

 ――大学としてやる意義は。

 太陽電池の研究は専門分野ごと様々な研究が行われていますが、無線電力電送や都市計画まで含めた広い範囲で研究できるのは、規模の大きな東海大の強みだろうと思っています。

 

 ――これまでの研究者としての歩みを。

 本学理学部化学科で在学生だった頃、はじめは有機化学を研究したいと考えていましたが、3年生の時の研究室選びで、有機化学系の研究室を訪ねたところ、頭痛になるほど有機溶媒の臭いが強くて「もしかして体質的に合わないのか?」と悩みました。結果、外部研究として横浜国立大学の光触媒の研究室を選択しました。光触媒によって有害物質を分解して無害化するという研究だったのですが、研究していくうちに光触媒そのものを研究したいと思うようになりました。その後、修士課程で東京工業大学へ進学し、現在の無機材料を合成する研究にたどり着きました。そのまま東京工業大学で博士課程まで進学したのですが、所属していた担当教員が東北大学へ異動したため、私も同行しました。そんなことから、私のキャンパスライフは、東海大学に始まって横浜国立大学、東京工業大学、東北大学と四つの大学を跨ぐ遊牧民のような研究生活を送ってきました。東北大学では助手として1年間、教員としての経験を積み、ようやく教員として本学へ戻ってきたというのが今までの歩みです。

 「有機ペロブスカイト型太陽電池」を研究するきっかけは、大学4年生の時に研究していた光触媒の二酸化チタン(TiO2)です。それが「有機ペロブスカイト型」や「色素増感型」太陽電池の電極の一部だったことが始まりです。二酸化チタン(TiO2)の研究を進めていて、光触媒以外にも応用したいと思っていたときに、これらの太陽電池に出会いました。

 

 ――研究者はそのように分野を広げていく方が多いのですか。

 何らかの「きっかけ」があって、「つながり」があって変化をしていくのが研究だと思っています。研究成果が出なくて「もう、この研究はやめてしまおう」という気持ちになることもありますが、そんなときに「きっかけ」や「つながり」が心の支えになります。研究分野が広がっていくときは、一人で研究しているときではなく、ほかの研究者と組んで研究しているときです。今回のエネルギーシステム開発チームで研究していることも分野を広げていくきっかけになりました。2010〜2014年度に参加した科研費の新学術領域研究では、何十人という大勢の研究者が集まって研究することで、各分野の研究者からたくさんの刺激を受けながら研究分野を広げられたと思っています。そのため、チームで研究をするという経験は、研究分野を広げる意味ではすごく大きいと思います。

 

 ――今後取り組みたいテーマは。

 「有機ペロブスカイト型」太陽電池は、フレキシブルな太陽電池です。ガラスではなくて樹脂で、プラスチックの基板にくっつけることも曲げたりすることもできるようなフレキシブルな太陽電池です。また、「色素増感型」はいろいろな色で作ることができます。そのことから太陽電池らしくない見た目で作れることも魅力です。例えば、パソコン用マウスに、緑でも赤でも好きな色の太陽電池を付けて、光が当たることで充電できるマウスが作れたら、電池を内蔵する必要がなくなります。既存の太陽電池を代替するだけではなく、むしろ塗料や電池を代替することが可能になればと思っています。

 

 ――若い人たちのメッセージを。

 なるべく多くチャレンジして欲しいと思います。研究は、うまくいかないことが当たり前です。何十回も実験して、何百個もサンプルを作って、やっと1個が成功する。研究は、それぐらい厳しい打率です。でも、それは失敗ではなく、当たり前の世界です。1個作ってダメだったら、たくさん実験すればいいだけです。どんどんどんどん挑戦をすること。研究の打席にはどんどん立ってもらって、バンバン振ってもらって。打率が下がっても問題ありません。大事なのは、研究成果というヒットを打つこと。たとえ空振りでも、ぜんぜんダメとか、惜しかったとか、何らかの感触やヒントはあるはずで、それらの失敗は結果的に打率を上げることにつながります。よく「失敗を恐れるな」という言葉を耳にしますが、研究において致命的な失敗はないと思います。

 最近の学生は保守的な印象を受けます。安定志向で失敗といえるほどの大きな失敗はしていないように思えます。若さは、年配者に比べて多くの時間を持っているという利点があります。打席に立てる回数をたくさん持っています。チャンスがたくさんあるのでリスクを恐れる必要はありません。もっとバットを振り続けて欲しいと思っています。

 

東海大学理学部化学科 准教授 冨田 恒之 (とみた こうじ)

東海大学理学部化学科卒業。 東京工業大学大学院総合理学研究科材料物理科学専攻修士課程および博士課程修了。 博士(理学)。 東北大学多元物質科学研究所助手、東海大学理学部助手、助教、講師を経て、2016年 度より現職。 2012年8月から2014年7月に文部科学省研究振興局学術調査官を兼務。 2016年度より物質・デバイス領域共同研究拠点COREラボ共同研究の研究代表者。 2017年度より東海大学総研プロジェクト研究“「人と街と太陽が調和する」創・送エ ネルギーシステムの開発”の研究代表者。