オピニオン

行政の課題を現場で考える 自分の頭で考える人材の育成を 政治経済学部 政治学科 准教授
出雲 明子

2018年1月4日掲出

 住民自治意識の高まりとともに、かつてないほど公平、中立性が求められている行政。かつて“お役所仕事”と批判された行政の改革はどこまで進んでいるのか、労働環境改善の旗振り役となっている役所自身の働き方改革はどうなっているのか。公務員制度について研究している政治経済学部政治学科の出雲明子准教授に聞いた。【聞き手・兵頭和行】

 

 

 ――専門の公務員制度論について教えてください。

 基本的に公務員は労働者ですので、企業と同じように労働問題があります。公務員と民間で法制度が同じであれば、一緒でいいわけですが、日本の場合、公務員特有の法や制度があり、官民の垣根が高いということを前提として公務員のための労働問題を扱う分野があります。労働問題といえば、勤務条件、給与、人事評価。あとは、政官関係といわれる政治家との関係をどう捉えるかという問題があります。そういう公務員特有の問題について、それがどのように決められているのか、その決め方が正しいのかどうか、例えば給与の決め方は正しいのかどうか、そういう基準についておもに研究しています。

 

 ――公務員に関しては、お役所仕事に対する厳しい目が向けられて久しいのですが現状は。

 お役所仕事自体はたぶん50年ぐらい前の言葉だと思いますが、ここ10年ぐらいお役所仕事的なものは減ってきています。それは公務員制度改革がここ15年ぐらいかけて行われてきていますので、その改革の一つのテーマが、お役所仕事的なそういう文化だったり、制度だったり、慣行をなくしていこうというのが含まれていて、もうおそらく実態としてお役所仕事はかなりなくなってきています。また、市区町村の図書館など一見公務員に見えても、民間委託で実際には公務員ではなく、民間企業が担っているサービスもたくさんあります。

 ただお役所仕事っていうとき、作業が遅いっていうような側面と、あと融通が利かないっていう側面があると思うのですが、遅さはある程度解消されていると思うのですが、融通が利かないというときには、公平性の面でもうできない、そもそもできないものっていうことも結構あるのではないでしょうか。

 また、人事評価制度が導入されたというのも大きい変化です。企業では約20年ほど前から、公務員では約10年ほど前から人事評価制度が導入され、その目標の一つが自分の仕事の組織の中での意味合いを整理するとか、自分の業務に業績というものがあれば、それはどういうことかということを明確にすることです。与えられた仕事をあまり意味づけしないでやるのではなく、仕事になる意味を考えるとか、そういった目的を持っている制度なので、それによって、効率性とか、業務の生産性とか、そういったものが考えられるようになってきたというのも大きいと思います。

 

 ――働き方改革が国全体で求められていますが、公務員、行政ではどうなのでしょう。

 公務員は仕事が楽で残業がないというようなイメージがあるかと思うのですが、現状、結構公務員は残業が出る仕事になっています。増えているのは、災害の対応とか、北朝鮮のミサイル問題が影響するような危機管理上の対応もあります。国家公務員も、例えば国会待機や安全保障の問題などや、野党から国会でする質問が出てくる時間が非常に遅いというようなことが最近少し問題になっています。公務員であれば費用が発生しないというふうに政治家も市民も思っていて、そういったことで残業が増えているというのもあります。

 また、公務員自身に残業の意識が低かったということもあると思います。何時に仕事を終わらせて、というような効率性が少し欠けてるという意識の問題もあります。そういった中で、働き方改革を国が企業に対して求めるのであれば、国が雇い主となる労働者の働き方改革をなぜやらないのかという疑問は当然、企業の側からも出るでしょう。例えば残業削減を求めたときにじゃあ自分のところは残業削減できないのかと当然なるわけですから。

 そうした中で重要なポイントは、まずは公務員の方々が働き方を見直す。それは業務整理をちゃんと行う。丁寧であるともいえるのですが、不要な業務や手続きがあるのではないかと。それらは、簡略化して、効率化することが重要です。そして、役割分担を明確にし、個人の業務を明確にし、業績もつかむことが求められると思います。その上で、外部、住民であったり政治家の側も、無料の労働力だというふうなことではなく、勤務時間があってそれに対して労働の報酬を受けているという意識を持つことが重要だと思っています。

 

 ――女性の労働問題はどうですか。

 男女の問題ということでしたら、業務の固定化。例えば福祉とか、そういった業務に女性が集中しているという問題があります。将来、例えば女性管理職に目標数値を設けて実現しようとしたとき、福祉分野に女性が偏っているということであれば、なかなかほかの分野の管理職を出すことが難しいという問題があるので、業務の固定化っていうのは、今後見直していく必要があると思います。

 地方自治体を中心に非正規労働の公務員が非常に多いのですが、今、政府が働き方改革の中で、待遇を見直そうとしています。非正規労働の公務員の方の多くが女性であるという問題があり、そこもやはり固定化されてしまっている。それをどういうふうに待遇改善していくのか。民間企業のように正規に切り替えていくべきかについては、反対も多いですが。非正規、正規労働問題は、今後、民間企業以上に大きな問題になると思います。

 

 ――毎年、ゼミ合宿でさまざまな行政の現場に行かれています。

 今年は神戸、昨年は盛岡、2015年は名古屋、14年は北海道・夕張です。盛岡は東日本大震災の被災地を訪問しました。その後の復興の取り組み、とりわけ高台移転と海岸沿いの地域をどう整備するのかという問題を見てきました。また、堤防を何メートルにするのかという問題が町ごとに違っており、それを当事者の方からうかがったりしました。高台移転はスムーズにいったところもあれば、断念したところもあります。移転して新しい家を建てるというのは金銭的にも非常に難しい。仮設住宅に住んでいる方もまだおられます。

 

 ――東日本大震災の被災地が抱えている一番大きな問題点は。

 東北は以前から人口減少を迎えており、追い打ちをかけるように震災が起こりました。復興は、そこに住み続けることを前提にアイデアを出したり、土地を出し合って道路を広げるなどのまちづくりができるのですが、造っても戻る住民が少なく、住まないことを前提とするようなまちづくりになってしまっています。つまり震災のせいで住民といってももう形が確かなものとしてなくなってしまった。バラバラになった状態で、住民が何を望むのかというような捉え方が難しくなっています。

 では行政がやればいいという考え方になるかもしれませんが、駅前開発にしても人がいない、人が戻ってこないということが起こっています。とりわけ原発事故がありましたから、人がいなくなるという問題が起こるということが一番の問題。帰ってきてもらうことを考えるのか、あるいは新しいUターン、Iターンの仕組みがいいのか。なかなかいい方法が見つかっていないという実態があります。今後、人口はさらに減っていき、例えば市町村合併をすることになるのでしょうが、震災の痛手を抱えたままそういう行政改革などを行っていかなければならない状態です。

 

 ――ゼミ合宿では、財政破綻を経験した夕張にも行っていますね。

 夕張市に関しては財政破綻して一時期サービスを縮小するという形で見直されました。ただ、それだとなかなか地方創生は難しいとなってしまいますので、ある程度のサービス水準を維持しなければいけないということもあり、見直されてきています。ただ、夕張のような状態になりうる団体はたくさんあります。できるだけサービスを見直して、財政的な負債を残さない仕組み作りが進められています。第二の夕張を出さないという観点で。とりわけハコモノに関しては造らない。造っても多目的にするという考え方で将来に大きな財政負担を残さないという考えになってきていると思います。

 

 ――学者を志したきっかけを教えてください。

 大学3年の時、アメリカのアリゾナ州内の大学に1年間留学して政治学、行政学を勉強し、それがきっかけで大学院に進学しようと思いました。アメリカでは行政学はメジャーな学問です。連邦と州という制度がありますし、住民参加みたいなものも分野に含まれており、とても実践的で身近なイメージなんです。教科書を使って勉強するというより実際にどんなことが行われているのかという話が中心。例えばある市の現状とか課題とか、そういう教科書にない勉強が中心でした。それでいろいろな例を知って、他にもこういうこともできるのではないかということを引き出すような勉強でした。すごく身近に考えたり発言したりできることなんだと感じました。

 一方、日本は学問的で、教科書や専門書を読んだりするのが中心でした。ゼミで現場に行く活動をしてるのはアメリカ留学の影響だと思っています。学生にはぜひ現場を見ていろいろなことを感じたり、勉強してほしいなと思います。

 

 ――公務員制度の研究に入られたきっかけは。

 学生の時、公務員の問題がクローズアップされていた時期で、例えば企業ではリストラが相次いでいる中、なんで公務員だけが厚遇を続けている、働き方を変えないのか、企業からの税収で賄われている行政は変わらないのかというような批判が強いという時期でした。そのときの課題を自分も認識していたので、そういう批判をしてみたいというつもりだったと思います。

 

 ――実際に研究されて公務員に対するイメージは変わりましたか。

 そのときはやはり批判されるような行動様式が結構あるなと思っていたのですが、ただ最近は変化していると思います。変化には着目されないまま、以前の批判が残っていると感じます。給与の問題というのは今でも批判される要素はあるのですが、それ以外の仕事ぶりとか、政策とか、サービスという面はずいぶん改善されていますので。

 

 ――今後取り組みたいテーマや研究を。

 今まで日本の公務員の特殊性みたいなことをやってきて、論文で国際比較もしているのですが、それを英語で発信するということができていません。広く海外の研究者の方にも読んでもらって、それをまた比較の題材に使ってもらうというようなことを今後やっていかなければいけないと思っています。国際共同研究もやってみたいですね。

 

 ――日本の公務員制度は他の国からどう評価されていますか。

 フィリピン、ミャンマー、タイなどアジアの国々から、非常に中立性の高い行政サービスが行われていると評価されており、日本の採用試験とか研修を取り入れたいという国は多いです。実際に外国から研修に来たとき、日本の行政や仕組み、採用試験、人事評価について説明する機会も多く、非常に進んでいるという評価をいただきます。

 

 ――国際比較したいのはどの部分ですか。

 政官関係の部分です。政と官の関係っていうのは、それぞれ諸外国にパターンがあるのです。安倍政権でも、森友問題や加計学園問題など、政官関係が問われる事件がありました。政官関係の変化を国際比較の中で位置づけてみたいです。

 

 ――大学を目指す若者へのメッセージを。

 自分の頭で考えることができる人になってほしい。得た知識を自分の頭で考えて、それがどういう意味なのかということを表明することができるように。自分の頭で考えるためにはそれなりの知識が必要です。現代社会は情報が多く、どれを吸収してどれを捨てていくのかということを身につける取捨選択が求められるのですが、それもある程度知識が必要ではないかなと思います。

 それとコミュニケーションが大事です。コミュニケーションは思考を促します。コミュニケーション能力が高い人は決まって明るいですし、好奇心旺盛です。好奇心がある人はすごく表情もいいですし、目が輝いています。そういう知る意欲を持ち、いろいろなことを勉強し、物事に関心をまず持ちましょう。そうすると次第に自分の頭で考えられるようになるのではないでしょうか。それは大学での勉強では、結構大事ですよ。

 

政治経済学部 政治学科 准教授 出雲 明子 (いずも あきこ)

2008年国際基督教大学大学院行政学研究科博士課程修了。博士(学術)。2008年、東海大学政治経済学部政治学科専任講師、2011年同准教授、現在に至る。専門は、行政学および公務員制 度論。おもな著書に、『公務員制度改革と政治主導 ― 戦後日本の政治任用制』 (東海大学出版部)、『はじめての行政学』(共著、有斐閣)など。